皆様、はじめまして。『高卒進路』編集長の澤田晃宏です。本誌は進路多様校(就職者が在籍する高校)に特化した進路情報誌として、2019年5月に創刊しました。発行部数は1万部。発行元の株式会社ハリアー研究所を通して、全国約4000校の進路多様校に無料配布しています。

私は長らく、朝日新聞のニュース週刊誌『AERA』の記者として働いてきましたが、高校中退という出版業界では異色の経歴で、日頃から自分の役割を考えていました。

たどり着いたのが教育でした。多くの人の関心ごとで、雑誌でも特集企画が頻繁に組まれますが、編集長やデスクなどの管理職はもちろん、外部スタッフまで難関大学を卒業した「高学歴集団」です。発信される情報のなかに「高校卒業後に就職する」などといった選択肢はありません。

しかし、間近でも高校卒業後に実践的な職業教育をする専門学校への進学者が約24%、就職する学生が約16%います(2021年3月卒)。2020年度から高等教育の修学支援新制度が始まり、経済的事由で進学を断念した学生のなかから、同制度を利用した就職からの進路変更も増えています。

高卒就職者の3割が母子家庭出身者

メディアが注目しない進路多様校の実態を書こうと、私は2017年から『月刊高校教育』(学事出版)誌上で、高卒就職者のその後をルポする連載「ニッポンの高卒」を始めました。高校卒業後に就職という道を「選択」した社会人20人に話を聞くなか、思わず考えさせられる現実がありました。

取材に応じた20人のなかで、6人が母子家庭の出身者だったことです。彼らははっきりとは口にしませんでしたが、親の言動などから進学を諦め、就職を選択していました。

高校生の就職を取材するなかで、ハリアー研究所の新留英二代表とも出会いました。同社は2003年の創業以来、一貫して高校生の就職支援に携わり、高校生のための就職求人サイト「ハリケンナビ」の運営を中心に、各種イベントを実施しています。

同社は毎年、取引先の企業に入社した新卒高校生を対象としたアンケート調査を実施しています。2020年、2021年は新型コロナ感染拡大の影響で中止となりましたが、その結果は私にとってショッキングなものでした。

アンケート項目の一つに、「就職を希望した理由」があります。その結果は、親の経済的事由による不本意就職が全体の3割を占めました。

こうした「不本意」就職者が含まれるため、離職率は当然、高くなります。厚生労働省の新規学卒就職者の離職状況(2018年3月卒業者の状況)を見ると、入社3年以内の離職率が大卒で31・2%なのに対し、高卒は36・9%です。高卒で離職すると、大卒に比べ転職先の選択肢も狭まり、不安定な非正規労働者としての道を歩まざるを得ない状況に陥りやすくなります。

階層の分断と固定化の解消を目指す

離職者を減らすためには、進学の道を模索して不本意就職を減らし、就職希望者には優良企業や成長産業を紹介していく必要があります。

しかし、進路多様校に向けたそうした情報が十分にあるでしょうか?

決して、あるとは言えません。だったら、自分たちで作っていこうと、同じ問題意識を持つハリアー研究所のCSR事業(企業の社会的責任)として創刊した情報誌、それが『高卒進路』です。

社会階層の固定化は、やがて頑張っても報われないという無力感を生み、社会から活力を奪います。高卒進路は、学歴や貧困の連鎖を食い止める最後のチャンスだと思っています。将来を考え、わくわくする。上を向いて歩く若者が増えれば、社会も活性化するでしょう。その役割が『高卒進路』にあると思っています。

教育現場からの評判も良く、支援者も現れてきたことから、持続可能な情報提供の形を模索し、その編集・制作業務を行うNPO法人を設立しました。電子版「高卒進路digital」を立ち上げ、情報発信量を増やします。進路指導現場にとどまらず、広く一般に進路多様校の状況に加え、彼らが活躍するブルーカラー職の実態を広く世の中に伝えることで、階層の分断と固定化の解消も目指します。

高卒進路編集長 澤田晃宏