元高校教員で、教育ジャーナリストの朝比奈なをさんが『月刊高校教育』(学事出版)誌上で好評連載中の「高校教育のアキレス腱」を本サイトにも掲載します。

教育ライター=朝比奈なを

現役教員の声高に言えない嘆き

親しい高校教員からの年賀状に「非常に限られた人材をいかに活かして自分の労働環境を少しでも『マシ』にするのが今年の課題」と書いてあった。この教員は校務分掌や教科の主任、委員会委員長を兼務し、また生徒の指導にも熱心なので、以前から長時間労働をしていることは知っていた。

だが、切迫した言葉の調子に驚き、真意をたずねてみた。すると、「あまり大きな声では言えないが」と前置きしつつ、同僚に育児や介護で時短勤務の人が多く、放課後の補習や分掌の仕事を任せられないと語った。また、再任用教員も増え、中には仕事に熱心でない人もいると少し憤っていた。

そういえば、似たような嘆きを昨春にも聞いたことがあった。別の親しい教員が、異動1年目からクラス担任となり、その上、持病が完全に回復していない病休明けの教員が副担任に充てられたのだ。異動1年目の教員が担任になるのは、その学校では「初めて」と他教員から同情されたそうだ。校内人事を決める管理職の苦悩も推測できるし、その知人は勤務歴15年以上の有能な人ではある。それでも、新しい赴任校でのこの立場は非常に辛かったようだ。年末にこの教員から、「4月以来、放課後には副担任はほとんどいない。そのため、クラスの事務作業を頼むことができない」との諦め半分の愚痴を聞いた。

勤務校が異なる2人の教員がちゅうちょしながら語るのは、病休等での休職や時短勤務の教員、再雇用教員が多くなり、複数年度にわたる内容の仕事を依頼しづらいこと、後継者を育てようにも、その候補者を探しづらくなっていること等、共通する問題点だった。

文科省調査が示すこと

前述の諸点は、義務教育段階の教員からしばしば聞くことだったが、最近は高校にも拡大しているのだろうか。2022年1月に、文部科学省は「『教員不足』に関する実態調査」という、興味深い調査の結果を公表している。タイトル通り、2021年度の始業時と5月1日時点での教員の不足状況等をまとめたものだ。

この中には、各学校段階での教員の雇用形態のデータもある。再雇用教員のフルタイム勤務者と時短勤務者の実数、病休などの休職者を補充するための臨時的雇用者の実数等が細かく公表されている。それによると、フルタイムと時短勤務双方を合わせた再雇用者の正規教員に対する割合は、小学校で3.94%、中学校で5.19%、高校で8.27%となっている。高校が最多となっているものの、特筆して多いとは言えない数値に思える。

しかし、各自治体の詳細を見ると、見え方が変わってくる。同調査には全都道府県と19政令指定都市が回答しているが、再雇用者の割合が10%を超える自治体は20で、15%を超えるところも散見される。大量採用時代の採用者が定年を迎えていること、再雇用制度は教員の生涯計画に益すること等、その背景は承知している。だが、学校現場で再雇用者が急増すると、それにより他の正規教員の働き方が変わることは想像に難くない。

一方、臨時的雇用者の正規教員に対する割合を見てみると、こちらは10%以上の自治体が26、中でも政令指定都市での割合が高くなっている。臨時的雇用が行われるのには様々な理由が考えられるが、高校現場で期限を切った短期的雇用が多く行われていることが確認される。

さらに、別の計算もしてみた。回答した自治体ごとにすべての雇用形態を合計した1年間の延べ教員数を出し、そのうち、再雇用、臨時的雇用、非常勤講師の合計がどのような割合になるのか見てみた。その結果が20%を超える都道府県は15で、30%を超えるところもあった。政令指定都市では回答した17のうち13が20%を超え、その中で30%を超えるところが5カ所あった。冒頭に挙げた知人たちの勤務地は20%を超えているが、この結果を見ると、同様の思いを持つ教員が各地に少なからず存在することが推測される。

仕事が引き継がれない!?

また、別の調査だが、文科省は毎年、公立学校教職員の人事行政状況調査も行っており、2021年度の結果が昨年12月に公表された。発表当時、精神疾患による休職者数が過去最高になったことが注目されたが、同調査では病気等による休職者や1カ月以上の休暇取得者等が学校種や年代ごと等に調べられている。実際の数値は省くが、高校では休職者はほぼ前年度並みだが、休暇取得者は実数も全教員数に占める割合も増加している。今も臨時的な雇用の教員が減少していないことが予想される。

もちろん、必要な時に休職する、休暇を取ることは当然の権利であり、権利を行使する教員の姿を高校生に見せることも大事な教育だ。また、経験豊富な再任用教員に助けられる若い教員も多いだろう。その一方、次年度は一緒に働かない可能性が高い教員が現場に増加するのは、仕事の継続性や蓄積といった面では問題でもある。まして近年は、コロナ禍で仕事のやり方に大きな変化が起こっている上に、大学入試改革、新学習指導要領の推進等々、高校現場は課題が山積している。文科省の調査で見える高校教員の現状から、一部の教員への過度な負担増があり、しかもそれを当事者たちは大きな声で言えないでいるのではないかと思えてならない。
 

朝比奈なを

東京都出身。教育ジャーナリスト。筑波大学大学院教育研究科修了。公立高校の地歴・公民科教諭として20年間勤務。早期退職後、大学非常勤講師、公立教育センターでの教育相談、高校生・保護者対象の講演活動に従事。著書に『置き去りにされた高校生たち』(学事出版)、『ルポ教育困難校』(朝日新書)などがある