高校教員有志による高卒就職問題の研究会「TransactorLabo」(代表‧石井俊教諭)による公開求人の分析企画【求人票を読み解く】。求人票を使った進路指導を2年生に対して行っている学校も多いでしょう。今回はそのポイントを解説します。
寄稿=石井俊(TransactorLabo代表)
公的データから水準を掴む
冬休みが明けると高校の就職指導の現場では現2年生への指導を本格的に始めるところも出てきます。現実的な就職支援の第一歩として、過去の就職先一覧を見せたり、関係の求人票を数枚コピーして渡したり、といった指導が一般的ではないでしょうか。これだけでもかなり丁寧なやり方だと思います。
このような個別の企業の情報に触れさせることは確かに有用ですが、一方で個別の求人票を見る目を育てることも重要だと思います。今回はそういった指導を行う際に役に立つ情報をいくつか提供したいと思います。
まずは、何はともあれ給与水準について正しい認識を持たせたいものです。厚生労働省の「令和3年賃金構造基本統計調査 結果の概況」から、学歴別の初任給を見てみましょう。

これは新卒者を採用した事業所(抽出)の全国平均ですので、地元の状況がどうなのかを知る必要があります。地域の労働局の公表データを探すのが正確ですが、高卒に関しては最低賃金のランクでだいたいの目星がつきます。
最低賃金Aランク +1万5千円
最低賃金Bランク +5千円
最低賃金Cランク 平均~-4千円
採点賃金Dランク -8千円~-1万2千円
ただ、「うちの地元は給料が低いから県外に出ることにする」というような短絡的な思考に走らせないように気を付ける必要があります。これらはあくまで平均の数字で、もっとずっと良いものも(もちろん低いものも)沢山あって、そのなかから良いものを見つけるための目安にしてほしいのだということを強調しましょう。
年間休日数を見る目安とは?
求人票の表面、労働条件等の欄には月平均労働日数と年間休日数があります。ここは給料以上に重視させるべきだと私は思います。年間休日は、週休2日で年間約105日、それに正月三ヶ日を加えると約108日、盆休みを足すと約110日。ほかの祝日15を入れると約125日。これが目安になります。
この125日という数字、先生も意外とご存じでないのでは?
以下は2022年度の求人票から拾った数字です。地域ごとに結構な違いがあります。また、前にも紹介しましたが、産業種ごとにも顕著な差があることも生徒に知らせておくのもよいと思います。

この年間休日数というもの、実は企業が社員にどれだけの休みを与えられるかを示す数字で、実は優良求人票を見つけるための格好の指標でもあります。というのは、大量の求人票を見ていると次のような傾向が分かるからです。
【年間休日数が多い(125日に近い)会社の傾向】
・社員数に余裕がある
・事業所の規模が大きい
・休みを取らせ易い
・早期離職率が低い
また、こういった求人票はだいたい給料も良く、その他の条件も良い。もちろん充足率も高い。競争率も上がりますが、そこは今のご時勢、強気で行かせてよいのでは?
求人票の必ず見るべきポイント
求人票の「募集・採用に関する情報」は必ず見させましょう。裏面の下部にあるこの情報には是非とも目を向けさせたいものです。特に「高卒の情報・新卒等離職数」です。ここで2割以上の離職を出しているところは注意が必要だと教えるべきでしょう。全くの空白になっている求人票は、事業者側が意図的に隠している可能性もあるので注意すべきです。
これは本当にあった話ですが、ある業界の大手企業がある年採用した120人のうち100人以上が1年持たずに離職しました。しかし、翌年の同社の求人票にはその記載が全くありませんでした。何故かとよく見たら、求人者名を親会社の名前に変えていたのです。こんな姑息な手を使うところもあります。
この数年の間に高卒就職市場では、求人情報のデジタルデータベース化をサービスとして提供する民間企業の存在感が増してきています。紙の求人票の山と格闘するしかなかった頃のことを考えれば、隔世の感があります。先生たちの負担を減らし、生徒たちの求人票選びの的確性と効率の向上に大きく貢献するこのサービスの導入は今後さらに進むでしょう。ひょっとしたら、数年後には高校生の就職活動の常識になるかもしれません。
ただ、それらサービスを利用させるにしても「見る目」の大切さは変わりません。この民間企業による求人票デジタルデータベース化サービスによって、これからの就職支援の先生がたの仕事のメインは、むしろ「選ぶ目を養う」ことにシフトしていくのではないでしょうか。
でもですよ、ちょっと待ってください。求人情報の提供って、そもそもハローワークや厚労省の仕事ですよね。それに、学校と生徒の就職に関する情報環境がぐっと向上するわけですが、企業側に対してはどうなのでしょうか?
超人手不足なのに賃金は相変わらず最低賃金付近……こうした高卒就職市場の不健全性の解消には求人情報のオープン化が不可欠です。民間の情報サービスが増えて便利になるのは良いことですが、それで終わりにするべきではないと思うのですが、どうでしょうか?