新卒高校生の就職先と重なる領域で働く「技能実習生」などの外国人労働者が増加している。「外国人=安い労働者」といったイメージは強いが、新卒高校生の賃金水準とさほど変わらない。日本経済のボトムである「高卒賃金」を上げなければ、「出稼ぎ国」としての魅力が薄れていく。高校進路指導現場が外国人労働者の受け入れの命運を握っている。

編集部=澤田晃宏

腫物に触るように扱わないと辞めてしまう

一日でも早く入国して来て欲しい。人手さえあれば、もっと仕事が受けられる――。2022年12月、京都府内の建設会社にベトナムから二人の若者が来日した。彼らの在留資格は、大卒または国内の専門学校卒以上を対象とした「技術・人文知識・国際業務」(以下、技人国と表記)だ。別の在留資格「技能実習」でも、ベトナムから3名の採用を決めている。前者と違い、技能実習生に学歴要件はない。受け入れを決めた建設会社の役員はこう話す。

「まずは現場監督として高度人材を採用し、ゴールデンウィーク明けに入国予定の技能実習生の管理者になって欲しい。ずっと働き続けてくれるなら、会社の幹部も目指して欲しい」

将来を見据え、技術職、技能職ともに海外から採用しようと決断した理由は何なのか。同役員は言う。

「10年前までは採用活動をせずとも、先輩を頼って中卒や高卒の若者が集まった。今や求人媒体にお金を出しても人は集まらず、若者の気質も変わった」

残業をしてでもお金を稼ぎたい。いい車に乗りたい。自分もいつかは親方になって独立したい――。そうした欲がまったく感じられないと同役員は話す。

「就業時間の17時になったら作業の途中でも切り上げて帰る。それでも、怒ったり、『もっと働いて欲しい』と言ったりしても通じません。腫物に触るように扱わないと、辞めてしまう。その一方、外国人は残業を拒むどころか喜んで、稼ぎたい、働きたいという意欲が強い」

建設業界は目下、若手人材の確保が喫緊の課題だ。現場作業を行う技能職は60歳以上が全体の26%を占める一方、29歳以下が11.6%と高齢化が進む。コロナ下で2020年度は新卒高校生に対する求人数が約2割減ったが、建設業の求人数は前年並みだった。若手の人材確保を外国人に頼り、建設分野に携わる外国人数は11年の約1万2830人から、2020年には11万898人まで増えている。

技能実習生の時給は実質1500円

ただ、海外からの人材を中心とした人員体制への移行を決断した先出の建設会社だが、彼らの賃金水準に驚いた。人材の募集・紹介を受けたベトナムの送り出し機関(派遣会社)から、こう言われたのだ。

「建設業は海外でも人気はない。技人国なら寮費を引いた手取りを20万円以上、実習生でも15万円以上を払わなければ、募集が集まらず、その後に転職や失踪するリスクがあります」

同社はアドバイス通りに、技人国の賃金は24万円、技能実習生は22万円とし、寮費は無料とすることにした。技能実習生の手取りを18万円以上としたことで、募集も採用人数3名を上回る6名が集まった。

「外国人だからと賃金を安く設定するつもりはありませんでしたが、彼らの求める水準の高さに驚きました」(先出の役員)

実際、大手メディアの報道を通し、外国人=低賃金といったイメージは強い。特に、建設業のみならず、新卒高校生の就職先と重なる領域が多い技能実習生に対しては、「奴隷労働」などといった批判もある。

実際はどうなのか。厚生労働省によれば、技能実習生の賃金の平均値は16万4100円(下図)。高卒初任給の16万8900円(男性)と大差はない。2019年に新設された単純労働分野で働く外国人の在留資格「特定技能」では19万4900円と、高卒初任給だけではなく、19歳以下の高卒平均賃金18万2500円も上回っている。

 

 

この賃金は、社会保険料の控除や残業代を差し引いた「所定内給与額」で、技能実習生の「きまって支給する現金給与額」は19万8200円だ。新卒高校生向けの求人で、この水準を下回る求人は地方に行けば山ほどあるのではなかろうか。

 

 

雇用者負担から言えば、新卒高校生より、技能実習生を採用するコストのほうが高い。企業は技能実習生を直接、採用することはできず、国が許可を出した監理団体を通す必要がある。監理団体とは、企業が法令通りに技能実習生を受け入れているかを監督する機関だ。その監理団体に受入企業は技能実習生一人当たり、月額約3万円程度の監理費を払う必要がある。

ホーチミン市(ベトナム)の送り出し機関「つばき人材育成有限会社」の日本駐在員、五百部敏行さんはこう話す。

「海外での面接渡航費や在留資格申請費用などを合わせると、採用コストとして50万円程度かかります。仮に技能実習生がもらう賃金が最低賃金レベルでも、採用コストや監理費の負担を考えれば、雇用者負担は時給1500円程度になります」

仮に、一日8時間、月に20日働けば、月給ベースで24万円になる。技能実習生を受け入れる企業の半数は従業員数10人未満の零細企業だ。それだけ人材に投資できるなら、新卒高校生の賃金をあげてもいいのではないかと思いたくなる。

介護施設も外国人頼り

それでも、少子化に歯止めが効かず、外国人に頼らざるを得ない状況が続く。日本経済新聞の調査によれば、業種別で最も外国人依存度が高いのが、食料品製造業だ。その比率は、11人に1人(2018年)である。

「かつては主婦パートと新卒高校生で現場が回っていましたが、年々採用が難しくなっています。外国人なしでは回りません」(製パン工場の幹部)

建設をはじめ、いわゆる「3K仕事」のイメージが強い業界では、例外なく外国人頼りの状況になっている。先の日経新聞の調査で、都道府県と業種をクロスさせ、外国人依存度が最も高かったのが広島県の漁業だ。その比率は6人に1人(2015年)で、広島の名産である牡蠣の養殖現場を支えるのは、技能実習生や特定技能外国人だ。

 

牡蠣養殖の作業をするフィリピン出身の技能実習生=広島県

 

近年、急速に外国人の受け入れが進むのが、新卒高校生に向けた求人も多い介護だ。公益財団法人「介護労働安定センター」の調査によれば、外国籍労働者を受け入れる事業所の割合は2018年の2.6%から、2020年には8.6%に増加している。

山梨県南アルプス市の特別養護老人ホーム「櫛形荘」は2021年、初めて技能実習生を受け入れた。施設長の福田修さんは、

「以前は高校や専門学校から新卒学生を採用できていたが、今は介護実習に来る学生すらいない。人手不足を派遣社員で補っていましたが、40代以上の無資格者が中心で、コストも高く、一年も続きません」

進路指導現場の責務

外国人の採用を考え始め、ベトナムを始め、海外の複数の日本語学校を訪れたりするなか、ネパールからの受け入れを決めた。その理由をこう話した。

「これから10年、20年、定着して一緒に働く人材を考えたとき、経済成長著しいベトナムは難しいと感じました」

特別養護老人ホーム「櫛形荘」で働くネパール出身の技能実習生=山梨県

 

冒頭の建設会社はベトナムからの受け入れを決めたが、業界を問わず「ポストベトナム」に動いている。米中貿易戦争などの影響を受け、いまやベトナムは世界の工場に。人口は約1億人で、国民の平均年齢は31歳。中間層が拡大し、賃金が上昇している。先出の五百部さんは、

「賃金が上がらない日本に出稼ぎへ行く魅力が薄れています。高齢化による人手不足は日本だけの問題ではなく、より賃金の高い欧州などに出稼ぎに行く若者が増えています」

目下、ベトナムに代わり、ミャンマーやカンボジアなど、より貧しい国から人を集める動きが加速しているが、それらの国も豊かになればどうなるのか。
「出稼ぎ国」としての魅力を取り戻すためには、日本人の賃金を上げるのが先決だ。その責務の一端が高校の進路指導現場にある。目下、超売手市場となるなか、新卒高校生に向けた賃金も上昇している。社会経験の乏しい生徒に代わり、優良企業、成長分野へと繋ぐ重責が進路指導現場に託されている。

※本記事は「高卒進路」2023新春号の掲載記事です