高校教員有志による高卒就職問題の研究会「TransactorLabo」(代表‧石井俊教諭)による公開求人の分析企画【求人票を読み解く】。今回は2022年度の公開求人の独自集計結果を解説します。進路指導関係者は必読です。
寄稿=石井俊(TransactorLabo代表)
平均賃金が最も高いのは「建設業」
1月も後半となりました。進学校では共通テスト後の2次試験の準備がまさに佳境を迎えており(ホントにお疲れ様です)、一方、進路多様校では3年生の進路がほぼ落ち着き卒業モード。進路指導室ではそろそろ現2年生の進路指導の検討に入られている頃かと思います。次年度の進路指導の一助となるべく、前回に引き続き、2022年度の公開求人票の分析結果を中心に解説していきます。
今回は2022年度夏公開の求人票約93,000件を独自集計した調査結果から、月給・年間休日数・年収の3項目の結果を昨年度と比較します。
まずは求人票の「月給」です。

建設業の18.5万円が目立ちます。この業種においては高卒求人にも人手不足感が如実に表れているようです。しかし、充足率は5.0%と、医療福祉業4.8%に次いで低くなっております(前回記事参照)。その医療福祉業は介護系が圧倒的多数を占めますが、月給はご覧のように全国平均でまだ16万円台と他業種と比較して低いままです。これらの業種が人気を得るには相当の待遇改善が必要だと思われます。
職種ではなく「産業種」にこそ差
次に年間休日数です。

全般的に1日程度増えたようです。年間休日数を見る場合、週休2日×年間52週=104日、正月3か日を加えて107日ですので、105日、あるいは108日を基準にするとよいでしょう。ここでも建設業の102.5日から104.0日に1.5日増えている点が目立ちます。なんとかして人を集めようとしている頑張りが見受けられます。
農林・漁業を除けば全産業種で週休2日ラインかそれ以上の休日数を確保しようとする動きが見られます。しかしながら、飲食宿泊業や生活関連サービス娯楽業は100日前後と、まだ少ない印象です。
高校生の求人検索の場では、事務職や技術職といった「職種」での検索がよくなされます。そういった場合、産業種はあまり重視されないわけですが、とくに休日数は「それぞれの業界の常識」のようなものがあり、産業種ごとにけっこうな開きがあることを考慮に入れておいたほうがよいと思います。
新卒高卒2年目の年収は「約250万円」
最後に年収です。賞与を含めた2年目の概算年収として計算しています。

全産業の全国平均が250万円弱です。高卒就職2年目の年収としてどうなのかの判断はお任せしますが、それにしても飲食宿泊・生活関連サービス娯楽業の2業種の低さは目立ちます。年間休日数の少なさを合わせて見ると何か大きな改善が必要な気がします。
教員が最も恵まれた立場にある
全労連などの労働組合はワンルーム賃貸マンションで暮らす25歳をモデルとした最低生計費調査結果を公表しています。新しいもので2022年6月高知県の調査結果があり、男女ともに約300万円という数字が報告されています。ちなみに、同県の高卒公開求人から算出した2年目年収は全国平均より12万円ほど低い237万円でした。高知県は最低賃金が820円と最も低い地域の一つですので、他の地域ではより高くなります。高校生への就職支援に携わる場合、こういった情報にも触れておいたほうがよいでしょう。
高卒就職市場は、待遇(給与や休日数など)や競争率(求人数と希望者数)などの相場が分かる情報があまりにも不足しており、良い選択や判断が非常に難しい状態です。生徒はもちろんのこと、求人事業者もそうですし、我々教員にも同様のことが言えます。早期離職の多くは、こうした枠組みによる残念な結果なのかもしれません。
いずれにしましても、高卒就職市場に関する情報に関しては私たち教員が最も恵まれた立場にあることは間違いありません。それはまた、それだけ責任が大きいことを意味します。生徒たちに分かりやすく豊富な情報を与えたり見極める目を養ったりしつつ、求人事業側にフィードバックすることも仲介者たる私たち教員の大切な役割なのではないでしょうか。