高校教員有志による高卒就職問題の研究会「TransactorLabo」(代表‧石井俊教諭)による公開求人の分析企画【求人票を読み解く】。7月公開された求人票が、12月時点でどれだけ充足しているのか。調査結果をレポートします。

寄稿=石井俊(TransactorLabo代表)

若者の待遇向上が最強の少子化対策

明けましておめでとうございます。早いものでこの連載も10本目となりました。

岸田首相が年始記者会見で、経済政策の柱は少子化対策と賃上げだと言明されました。我々には強い追い風になると心強い限りですが、いささか遅きに失した感が否めないところであります。

また、力点がズレているようにも思われます。子育て支援は確かに重要ですが、子育てに入る前の年代や、さらにそれよりも前の年代の働く若者たちの生活をもっと余裕あるものにすることが肝要ではないでしょうか。

ちょっと卑近な話になりますが、憂国の一教員の戯言としてご容赦ください。日本の7割はクルマが必要な田舎です。田舎ではクルマと、小遣いにそこそこの余裕がないとカノジョなんてできません。クルマを所有しつつアパート等で自活しながら余暇のレジャーを楽しむ余裕のある生活を送るためにはどれぐらいの収入が必要でしょうか。

16万円とか17万円の月給ではムリです。この給料では、実家暮らしで実家で親の援助をがあれば何とかやっていけるでしょうが、一人暮らしでは相当切り詰めた生活をしないといけません。ここ数年、全国の公開高卒求人票をウォッチしていますが、月給の全国平均は17.5万円、年収では240万円台です。これでも上がってきたほうです。年収は高卒2年目の賞与と昇給を計算に入れた額です。5年経ってもおそらく300万円を超えないでしょう。少子化の主因は結婚数の減少です。それには若年労働者の所得があまりにも低いことが大きく影響していますので、そこに手を付けないことには出生数の反転は望めないでしょう。

若者の待遇向上を!

要するに若いモンにヒマとカネを……。これが最強の少子化対策だと思いますよ。

充足求人と非充足求人の賃金に大差なし

さて、本題に移ります。私たち高卒就職問題の研究会「TransactorLabo」は、毎年夏に公開された高卒求人票が12月時点でどのぐらい公開停止になっているのかについて、調査を実施しております。

夏の公開分をA群、12月の公開分をB群とします。A・B両群を比較すると、AのうちBにないもの、つまり公開停止になったものを割り出すことができます。公開停止になった求人票はだいたいが充足したものと見ることができますので、それを充足群と考えて統計を取っております。全国の公開求人票の数は10万件近くの上りますのでかなり大変な作業ではありますが、高卒就職市場の実情を掴むには非常に有用な調査ですので頑張ってやっております。

まず、夏に公開された高卒求人票の充足率(公開停止された率)がどれぐらいだったのかを報告いたします。

 

調査対象は2021年が約95,000件、2022年が約93,000件(約2.0%減)です。全体では、昨年の12.29%もずいぶん低いと感じましたが、今年はさらに下がり、9.28%でした。産業別に見ると、全体的に下落傾向ですが、顕著なものとしては、これまで高卒就職では人気のあった金融保険業の充足率が前年比25.13%減の30.10%と大きく下落したことでしょう。一方、同じく人気の電気ガス熱供給水道業は、前年比7.08%増の25.29%と充足率が伸びています。

少し意外だったのが、農協・漁協・森林組合などからの求人が多い複合サービス事業が10%近く下がったことです。また、自動車教習所や私立学校の事務職の求人が多い教育学習支援業がほぼ変わらない充足率だったというのも少し驚きです。現在の売手市場の状況における維持は、人気が上昇したと捉えるべきでしょう。

次は、求人票記載の月給の統計です。

昨年と比べて2500円程度の上昇が見られます。残念ながら、それしか上がっていません。これは最低賃金の上昇分にも足りていません(*注)。求人倍率が3倍を超えているにもかかわらず、です。若者の所得向上を求める立場としては、やはり企業側にもっと相場情報を流し、競争を促すことが必要でしょうと言いたくなります。

続いて、賞与を組み入れた概算年収の統計です。

就職して2年目の高卒の年収はだいたいこれぐらいだという数字です。充足群がやっと250万円を超えています。昨年から5万円ぐらい上がっていますが、これも最低賃金上昇分に満たず(注)、物価上昇を考慮すると実質マイナスに近いのではないでしょうか。

(*注)1ヶ月の標準的な労働時間175時間、最低賃金上昇幅30円として計算。175h×30円=5,250円/175h×12ヶ月×30円=63,000円

探せば年収300万超えの求人も多数ある

さらに詳細な分析結果をまた次の号で報告いたします。

さて、冒頭でも触れましたが、我々がこのような調査分析や報告・提言を続けているのは、それが高卒就職問題の改善には必要不可欠だからであり、それが若者の所得向上や我々教職員の負担軽減に直接影響するだけでなく、日本の将来に大きく貢献するものだという信念からであります。

その立場から高校生の就職支援に携わっておられる先生がたに敢えて申し上げます。学校指定非公開求人しか見ないで終わっていないでしょうか? もし、そういう形だとしたら非常にもったいないように思います。公開求人もしっかり見ましょう。

というのは、今回の調査結果から見ても公開求人票の充足率があまりにも低く、つまり、売れ残る求人票が多いのは仕方ないのですが、ただ、その中に「え、こんな好待遇なのに?」と思う求人がゴロゴロあるからです。

今回の調査で、公開求人の充足率がとくに低かった地域の残っている求人票を調べてみました。充足率5%(95%が売れ残り!)のある地域は最低賃金が最低ランクの821円ですが、年収300万円以上の待遇の求人票が約2000件中110件、400万円を超えるものも1件残っていました。また、同じく5%台の別の地域は最低賃金が850円台後半で、約2100件の公開求人票の中には年収300万円以上が260件、400万円以上が6件、なんと500万円以上のものも1件残っていました。

給料ばかりが就職先選びの条件ではないことは重々承知ですが、それにしてももったいない。まあ、これも求人のあまりの多さと高卒就職情報WEB提供サービスの使いにくさや、先生たちの忙しさ……つまり、これが高卒就職問題そのものなのであります。

では、令和5年、2023年が良い一年となりますよう祈念申し上げ、今回はこれまでといたします。