新卒高校生が働く領域で技能実習生や特定技能といった在留資格で働く外国人労働者が年々増加している。最大の送り出し国であるベトナム人労働者が求める賃金が、新卒高校生の賃金を上回り始めている。

編集部=澤田晃宏

日本の高卒賃金「こんなに安いとは…」

京都府の建設会社が12月、初めてベトナムから労働者を受け入れた。同社の社長はこう話す。

「とにかく人が足りない。以前は先輩、後輩のつながりで人が入ってきたものだが、まったく人が集まらない。昔と違って週休二日は当たり前で、17時になれば仕事途中でも帰宅するなど、若者の仕事に対する意識も変わってきている」

同社は受け入れに当たり、社員寮を準備。来日前に冷蔵庫などの家具を揃え、近所の買い物のための自転車も買いそろえた。

「ベトナムの送り出し機関(派遣会社)から、月給から社会保険料などに加え、寮費を引いた手取り金額を最低15万円にして欲しいと言われ、寮費は無料としました」(同前)

厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、高卒の初任給は16万8900円(2019年)。社会保険料などを控除した手取り金額にすると、14万円強になる。ベトナム人労働者が求めるそれを下回っているのだ。

筆者は以前、ベトナムの送り出し機関幹部に日本の新卒高校生向け求人票のいくつかを見せたことがある。目が点になるとは、このことだ。一瞬、間をおいてこう呟いた。

「日本の高校生の賃金はこんなに安いのか……」

同幹部が「こんなに安い」というには、外国人労働者を受け入れるための費用も考えてのことだ。

「マスコミ報道などで『技能実習生=安い労働者』というイメージが強いですが、そんなことはありません。受け入れ企業は技能実習生を直接採用することを認められておらず、国が許可を出した監理団体(技能実習生の監督機関)を通じてしか受け入れられません。受け入れ企業は労働者に給与を支払うほか、労働者一人当たり月額約3万円の監理費を監理団体に支払わなければなりません」(同前)

受け入れに当たっては、海外での面接渡航費や在留資格申請などの費用もある。それらの費用と賃金を合わせると、「時給1500円程度になる」と同幹部は説明する。平均的な労働日数21日で計算すると、月給は25万2000円(1500円×8時間×21日)だ。

生徒の希望だけを尊重していいのか?

ベトナム人技能実習生の面接風景=ホーチミン市

もっとも、先出の幹部は「建設・縫製・農業」は不人気職で、工場内作業などの人気職では「寮費を引いた手取り金額が最低15万円」ではなくとも人は集まるという。それでも、ベトナムの国自体が急激な経済成長を遂げており、人気職でも12万円を下回ると募集は難しいようだ。

一方、新卒高校生の賃金はどうなのか。

目下、7月末時点の有効求人倍率が31年ぶりに3倍を超える「超売手市場」のなか、日本の高校生からも決して人気が高いとは言えない建設業などでは、高い賃金を設定する企業が増えてきた。厚生労働省の高卒就職情報WEB提供サービスの基本検索条件で月給20万円以上と設定すると、最低賃金が低い地方でも50件以上の求人は見つかる。

ただ、最低賃金水準の求人票がまだまだ多いのが現実だ。筆者は進路担当教諭や就職支援員を取材する機会が多く、こんな言葉を聞くことは少なくない。

「待遇的には他社と比べ水準が低いと思う求人票でも、あくまで生徒が希望する求人に応募させるようにしている」

本誌人気連載「求人票を読み解く」でも再三指摘しているが、高卒就職情報WEB提供サービスのアクセス権は教員と生徒にしかなく、企業はアクセスできず、他社の求人内容を見ることができない。結果として、最低賃金に引っ張られがちとなっている。

国をあげて賃上げに取り組もうとしている今、生徒の希望はもちろん重要視すべきだが、進路指導現場には社会経験のない生徒に変わり、優良企業、成長産業へとつないでいく責任がある。ボトムとなる新卒高校生の初任給が引き上げは、すなわち、日本経済全体の賃金底上げとなる。