高校教員有志による高卒就職問題の研究会「TransactorLabo」(代表‧石井俊教諭)による公開求人の分析企画【求人票を読み解く】。高卒就職情報WEB提供サービスへのアクセスを制限することによる弊害を指摘します。

寄稿=石井俊(TransactorLabo代表)

離職率は産業別に見ないと意味がない

前回は、学歴別の早期離職率がそもそも問題視するべきものなのかという疑いや、様々な対策が打たれてきたが大きな成果が得られていないことなどについて述べました。今回は産業種別の早期離職率の推移を示しながら、早期離職の問題に対するこれまでとは違った見方の必要性を考えてみたいと思います。

厚労省のホームページで平成15年3月卒から平成30年3月卒までの15年間の新規学卒者(中学卒から大学卒まで)の離職状況の詳細な結果を見ることができます。卒業年次ごとの1年目・2年目・3年目に離職した数の産業種ごとの記録で、かなり膨大なデータになっています。

ここから全体像を把握するのは難しいので、「高卒の各年次の3年目までの産業種別の離職率」を抜き出し、次のようなグラフを作りました。折れ線がたくさんで申し訳ありませんが、産業種ごとの離職率の違いや、その推移がよく可視化されていると思います。じっくりご覧下さい。

 

 

中段やや下の太い黒折れ線が全体の平均です。その上が全体平均よりも離職率が高い産業種で、下が平均より低い産業種ということになります。飲食・宿泊サービス業、生活関連サービス・娯楽業、小売、医療・福祉の4業種は6割前後の高い離職率を示しています。

もはや大卒と変わらない高校生の離職率

また、先出の資料では、製造業だけは一段深い中分類種別の数字が出されています。それを同様の手法で可視化したのが次のグラフです。中ほどの太い黒折れ線が全製造業の平均です。このグラフからも同じ製造業の中でもかなりの違いがあることがわかります。

 

 

食品製造、木材製品・家具等製造、繊維工業、紙製品・印刷関連製造、金属製品製造が全体平均よりも高くなっています。逆に、化学工業・石油製品、機械関係製造、非鉄金属製造、鉄鋼製造などが3割を下回るあたりで推移しています。

いかがでしょうか。高卒生は就職後4割から5割が3年持たずに離職する……このようなイメージが社会一般に浸透していることは事実です。たしかに30年以上そのような状況が続いていますので、それも致し方のないことです。

しかしながら、「学歴別就職後3年以内離職率の推移」を見ると、新卒高卒の3割から4割という早期離職率は若干の差はあれど大卒もそれほど変わらないことがわかります。

さらに、産業種別の統計を見ると早期離職率が業種によって大きな開きがあることがわかりました。他の学歴の統計はグラフ化はしていませんが、ざっと見た感じでは高卒で離職率が高い業種は大卒や短大卒でも同じような高さです。

これらのことを鑑みると、早期離職率の問題は学歴別に見ること以上に、その業種(いわゆる「業界」)の雇用慣行や常識に改善の目を向けることが必要なのではないか、このような仮説が説得力を持って浮上してくる……そんな気がいたします。

先生がたはどうお感じでしょうか?