大阪労働局と大阪府教育庁が2月16日、新卒高卒就活の「1人1社制」を見直しを発表し、大阪府は2022年度から大都市では初となる複数応募を解禁した。ただ、応募先を1人1社に制限する現行ルールを維持する高校もある。大阪府立西成高校(大阪市西成区)進路保障課の世良田豊・課長に話を聞いた。
編集部=澤田晃宏
複数応募解禁の影響で指定求人票が増えた
――大阪府では複数応募が解禁されましたが、西成高校は原則「一人一社制」で指導する方針を出しています。
当校は大阪府が2015年度より指定している「エンパワーメントスクール」の一つです。エンパワーメントスクールは、学び直しを含めたカリキュラムを実践するなど、すべての生徒が社会人として必要な「基礎学力」、「考える力」、「生き抜く力」を身に付けることを目指しています。
当校生徒の進路を見ると、例年、半数以上が就職し、今春は卒業者165名のうち、86名(男子47名・女子39名)が就職しました。当校では3社以上の職場見学を推奨し、多い生徒では5社の職場見学に行きます。生徒の就職意欲の集中化や混乱を避けるため、複数応募を行わない方針を大阪府に確認し、進路指導を行っています。
――複数応募に関し、生徒や保護者から質問が出ることはありましたか?
現在までは複数応募を希望する生徒はおらず、保護者などから質問が出ることもありませんでした。複数応募の影響で言えば、指定求人が増えたことでしょう。当校には今年度、約120社ほどの指定求人が届きましたが、今年度は特に増えました。生徒の複数応募に備え、企業側が対象校を絞ってきたのではないでしょうか。業種別に見ると、飲食などサービス業の求人が増えています。
複数応募解禁の影響で指定求人票が増えた

西成高校の世良田課長=西成高校の進路指導室にて
一部では一人一社制は視野を狭めるという指摘もありますが、18歳成人になったとは言え、まだまだ就業意識も弱く、仕事に対する理解も深くありません。
そもそも、何でこれまで高校生の就職は一人一社制になっていたのか。それは、一人一人の若者の社会参加のための就活が、大卒者のような就職競争が過熱化する状況を防ぎ、一人一人が丁寧に会社選びをすることが目的ではないでしょうか。
――西成高校は「職業的自立」を学校目標の一つにかかげ、1年生から進路指導を実施しています。
はい。1年生のときから自らの生き方、あり方について考えていきます。2年では、インターンシップや面接練習に取り組みます。インターンシップは2年生の7月と1月に年2回行い、7月のインターンシップは全員が対象です。今年度は51社がインターンシップを受け入れてくれました。
――インターンシップの効果はどう評価していますか?
インターンシップからアルバイトに結びつくケースもあります。体験者の離職率は低く、本校生徒の離職率は1年目で16%~18%です。今後も参加企業を増やしていきたいです。インターンシップに協力してくる企業や指定求人を出す企業は、本校に対する理解もあり、生徒にも勧めやすいです。複数応募を認めると、そうした協力的な企業様に応募した生徒のなかから「内定辞退」が出る可能性もあります。
――それも、一人一社制を継続する理由の一つなんですね。
はい。就職後の定着を考えたとき、インターンシップは非常に有効と考えています。本校の生徒は半数以上がアルバイト経験がありますが、働く経験なしに社会人になると早期離職のリスクが高まります。実際、今春就職した生徒でゴールデンウィークまでに数名が離職しました。コロナ下で、インターンシップ、修学旅行を経験していないといった事情もありますが、全員に共通するのはアルバイト経験がないことでした。3年生から働き先を探し始めるのではなく、働くことに対する就職活動前の意識づけは重要と感じます。