2020年度にスタートした「高等教育の修学支援新制度」。制度拡充の議論も進む。奨学金アドバイザーとして年間100回以上、全国各地の高校やオープンキャンパスで保護者対象の講演活動をする久米忠史さんに現状の課題を聞いた。

編集部=澤田晃宏

保護者だけではなく教員向けの勉強会も

――制度に対する理解、活用が広がっている実感はありますか?

例えば、貧困家庭の多い沖縄県では、新制度開始前の2019年度では給付奨学金の給付人員は818人でしたが、2021年度は6785人まで増えています。ただ、新制度への理解は確実に進んでいますが、まだ十分とは言えません。

――十分ではない?

はい。制度自体が複雑で、学校の奨学金担当者は理解しているかもしれませんが、担任や進路指導担当者レベルで保護者にきちんと説明できる人はまだまだ少ないのでないでしょうか。担任レベルでの理解が深まれば、3者面談などを通じて、制度に繋がる生徒がさらに増えていくと思います。

そうした思いもあり、昨年度からは保護者だけではなく、教員を対象とした奨学金の勉強会を実施しています。今年度も12月7日に那覇市で、来年2月1日に青森市、2日に青森県八戸市で実施する予定です。

 

進学費用のすべては賄えない

――給付型の奨学金に加え、授業料や入学金の減免を受けることができますが、施設設備費や同窓会費などの費用は対象ではありません。住民税非課税世帯などにはまだまだ支援が不十分という声があります。

確かに進学にあたっては初年度の納入金が大きな負担になります。私大の初年度学生納付金(授業料、入学料、施設設備費の合計)の平均は135万7080円(文科省調べ)です。住民税非課税世帯(第Ⅰ区分)では入学金と授業料を合わせ最大約96万円の減免を受けることができますが、それでも十分ではありません。

また、高等教育機関の少ない地方では、進学=下宿となります。そのための引っ越し費用や賃貸住宅などの初期費用など、多額の出費が必要になります。そのため、自宅外通学が基本となる地方では、新制度の利用がまだまだ進んでいません。

――日本政策金融公庫の調査によれば、自宅外通学を始めるための費用(アパートの資金や家財道具の購入費)は、入学者1人当たり約40万円です。地方の生徒には、まだまだ経済的負担が進学の壁になっています。

せめてレポートは課すべき

ただ、まったく負担がないと、問題の先送りに過ぎない安易な進学が増えることが懸念されます。就職か進学かを決められない生徒が、モラトリアム的に進学するケースです。中途半端な思いで進学すると、中退退学のリスクがあり、高校とは違い、大学や専門学校では自分の力で就職活動をしなけばなりません。

――現在の新制度で、改善すべき点はありますか?

新制度は原則、申込時期までの評定平均値が3.5以上という成績基準が設けられていますが、それ以下でも高校在学中に申し込む予約採用の場合は、学校長がレポートや面談等で学習意欲を認められばいいという形になっています。ただ、実態は面談等で済ましているケースが大半でしょう。

経済的事由で進学を諦めないようにさせることは重要ですが、せめてレポート等を課すべきです。現状、世帯年収要件さえクリアすれば給付される現状は改善すべきと思います。

――久米さん、取材ご協力ありがとうございました。

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