進路多様校の新卒高校生からの自衛官の応募は、主に陸上・海上・航空自衛隊の「自衛官候補生」と「一般曹候補生」になる。キャリアは? 待遇は? 高卒自衛官3人へのインタビューも含め、現状をレポートする。

編集部=澤田晃宏

志願者数は民間の求人倍率に反比例する

4月12日にあった参議院の外交防衛委員会。質問に立った元自衛官の宇都隆史参議院議員は、こう危機感を訴えた。

「我々は全く実員力が足りません。あのウクライナでも実員26万人います。我々は24万人を切って23万ちょっとしかいない。最後は、防衛力というのは人の数になります」

防衛省設置法により、自衛官の定数は一人単位で決まっている。2022年3月31日時点で定員24万7154人に対し、現員は23万754人。充足率は93.4%と「定員割れ」を起こしているが、背景には一人単位で定員を定める「法律の壁」がある。自衛官の定員及び現員数は年度末に集計されるが、当然、人の入れ替わりがある。

自衛官の採用の多数を占める「自衛官候補生」(後述)は3月から4月にかけて採用され、6月から7月にかけて自衛官に任官される。そのため、同時期が最も現員数が多くなるが、一人でも定員数を超えてはならず、年度末時点では増加分を見込んだ余裕を持った現員数しか抱えられないのだ。

ただ、先出の宇都議員の質問は、こうした一人単位で定員を定める法律の弊害を問うものだが、自衛隊ももれなく「人手不足」であることは間違いない。自衛官等の応募者数は1998年度に最大15万9328人いたが、間近の2022年度は8万4825人と、ほぼ半減している(下図参照)。

 

 

進路多様校の新卒高校生からの自衛官の応募は、主に陸上・海上・航空自衛隊の「自衛官候補生」「一般曹候補生」だ。前者は、自衛官となるための必要な訓練を受け、任用期間が定められた「任期制自衛官」に任官する。後者は任用期間の定めはなく、部隊の基幹隊員である自衛官として活動する。

応募者が減少しているとは言え、2021年度の応募倍率は自衛官候補生全体(陸・海・空)で5.3倍、一般曹候補生全体(陸・海・空)で4.4倍だ。それでも、自衛官の採用を担当する防衛省・自衛隊の募集担当者は「今の低い倍率では、隊員を確保することが難しくなります」と話す。

経済がコロナ以前の状況に戻りつつあるなか、民間企業の採用意欲も回復。目下、高校生の就職活動が始まっているが、7月末時点で求人倍率が3.01倍と、1992年以来の高水準になっている。

「自衛官の応募者数は求人倍率と逆の動きを見せます。民間企業の採用が積極的な今年度は、募集に苦戦するでしょう」(募集担当者)

人を大切にする組織。体力仕事だけではない

一般曹候補生の第3回試験は10月19日から実施。自衛官候補生の試験は9月16日以降に随時(採用活動を担当する各地方協力本部により試験日は異なる)実施されるが、高卒就職が未曾有の売り手市場となるなか、応募者増の見込みは薄いと先の担当者は話す。

「コロナ下で体験イベントなどが行えず、十分な広報活動を行えなかった。SNSなどを利用し、自衛官のリアルな生活を伝える努力を行っています」

自衛官の応募者が減少するなか、2018年には自衛官候補生と一般曹候補生の採用年齢の上限を26歳から32歳に引き上げるなど、対策を打ってきた。2021年度からは「任期制自衛官退職時進学支援給付金」制度を開始。任期制自衛官として任期満了まで勤務し、国内の大学に進学。在学中に非常勤の特別職国家公務員として、訓練招集命令により出頭する即応予備自衛官に任用された場合、年額24万円の給付金が支給される。

先出の担当者に進路指導現場へのメッセージを求めると、

「入隊後は各部隊の先輩が丁寧に仕事を教え、定年などの退職後も再就職施策が充実しており、〝人を大切にする組織〟です。業務は様々あり、体力仕事だけではありません。広く関心を持って欲しい」

自衛官は国家公務員で、待遇は安定している。2士の俸給は高卒で17万9千円と高卒の2019年の平均初任給16万9千円を上回る。各種手当に加え、賞与が4・5か月分支給され、何より生活費がかからない。

隊員は宿舎で生活し、その寮費や食費(月額2万7千円相当)に加え、制服や作業着などの衣服類、寝具等も支給、または無料で貸し出される。また、産休・育休を含め約3年間の休業が認められるなど、ワークライフバランスも最大限考慮されている。

高卒から幹部の道も。再就職支援にも強み

民間企業と比べ定年は早いが、退職手当に加え、60歳までの一定収入を保証する「若年定年退職者給付金」がある。任期制の自衛官候補生も、1任期ごとに退職手当が支給される。

 

 

退職後の再就職施策を行う専門部署もあり、大型自動車や電気工事士といった資格から、宅地建物取引士や基本(応用)情報技術者など広い分野の職業訓練を実施。97%以上が再就職先を見つけている。

任務に応じた手当も大きい。海上自衛隊の募集担当者はこう話す。

「例えば護衛艦の乗組員は俸給に加え乗組手当が出ます。これは例えば俸給額32万6100円の場合(2曹40代前半くらい)、この俸給月額に対し33%を乗じた額10万7613円が乗組手当として支給されます(潜水艦の場合は45%)。加えて、出港日数等により航海手当が支給され、長い航海になればなるほど、この支給額は大きくなります」

自衛官の俸給は階級により大きく異なる。新卒高卒で入隊した場合、「曹長」の階級で退職するケースが多いという。もっとも、幹部候補生試験に合格すれば、3尉以上の幹部候補生になるチャンスもある。任期制自衛官として入隊後、幹部候補生(一般)試験に合格し、「将補」の階級まで昇任した例もあるという。

国家を守る。それが自衛隊の仕事なんだ

いったい、どんなキッカケで自衛官を志したのか。3人の「高卒自衛官」に話を聞いた。海上自衛隊の川端秀乃介さん(21歳)は、海上自衛隊や在日アメリカ海軍の基地があり、陸上自衛隊の武山駐屯地のある神奈川県横須賀市の出身だ。幼少期から海で護衛艦や軍艦を眺めたり、中学生のときには武山駐屯地での体験イベントに参加したり、自衛隊は身近な存在だった。

 

川端秀乃介さん(21歳)神奈川県立海洋科学高校出身

 

高校に入学した時点で自衛隊への応募も決め、叔父も勤めた海上自衛隊を希望した。母校から同じ海上自衛隊を目指す同級生がいた。一般曹候補生の試験に向けて勉強をする際、同級生の言葉が刺さった。

「海上自衛隊に入って、海に囲まれた日本を守るんだ」

国家を守る。それが自衛隊の仕事なんだ。現在、川端さんは護衛艦「むらさめ」に乗艦し、射撃指揮装置を操作する射管員を務める。

「飛んでくる飛翔体にミサイルを発射するシミュレーションなど、標的に着弾したときは、普通の仕事では感じられない達成感があります」

清水絋幸さん(23歳)は高校卒業後、専門学校に進学し、公務員を目指した。具体的な進路を考えるなかで、脳裏に浮かんだのが熊本地震の被災地で活躍する自衛隊の姿だった。

 

清水絋幸さん(23歳)私立武蔵越生高校出身

 

専門学校在学中、市ヶ谷駐屯地(東京都新宿区)であった見学会に参加。目にしたのが「陸上自衛隊第302保安警務中隊」の訓練だった。同隊は国賓が来日した際や防衛大臣などの離着任時に行う唯一無二の「特別儀仗」などを任務とする特別部隊だ。儀じょう銃を手に一糸乱れぬ動きを見せる様に、清水さんは魅入られた。

一般曹候補生の試験に合格し、20年4月に入隊。希望通りに配属されるわけではないが、清水さんの強い希望が通じたのか、憧れの部隊に配属となった。

「外国首脳が訪日した際も、我々の出番になります。最高のおもてなしを見せるため、日々、厳しい訓練をします。先輩や同期の仲間と助け合い、任務を全うしています」

2030年度までに女性比率を12%以上に

西田梨花さん(19歳)は高校時代、ウエイトリフティング部の活動に精を出した。
つらい練習も乗り越えた経験を活かせないか―そう進路を考えていた時、地元の地方創生イベントに参加した。そこに、自衛官の募集を行う地方協力本部が出展していた。

 

西田梨花さん(19歳)兵庫県立洲本実業高校出身

 

顔にドーランを塗る体験イベントをしており、「面白そうだ」と参加。自衛官のパンフレットをもらい、目を通すと、自衛官こそ、高校時代に頑張った経験が生きる仕事だと思った。

西田さんは一般曹候補生として2021年4月に入隊。約4ヵ月の教育訓練、隊員に必要な技術を習得する術科学校で2か月を過ごし、市ヶ谷基地に配属された。航空中央業務隊に所属し、隊員が入居する官舎の費用を計算するなど、厚生業務を担当する。

「自衛隊と言えば、体力仕事のイメージがありましたが、事務仕事もたくさんあります。体力に自信のない人でも活躍できる場はたくさんあります」

2022年3月末時点で女性自衛官は約1.9万人。全自衛官の約8.3%にあたり、2030年度までに女性比率を12%以上とすることを目標としているという。

※本記事は「高卒進路」2022秋号の掲載記事です