高校教員有志による高卒就職問題の研究会「TransactorLabo」(代表‧石井俊教諭)による公開求人の分析企画【求人票を読み解く】。今回は例年2月に実施される「高等学校就職問題検討会議」について。進路担当の先生がた、要望や意見、どんどん出していきましょう!

寄稿=石井俊(TransactorLabo代表)

高卒就職のルールや取り決めはどこで作られるのか

民主主義社会において、社会の約束ごとというものは「みんなの幸せ」。つまり、公共の福祉の実現を目指して作られますが、目的に叶っているかどうかの不断の見直しがなければ、デメリットが大きくなることがあります。時の流れで社会の情勢や価値基準が変化するからです。

高卒就職に関する「枠組み」にもこれが当てはまります。ここで言う枠組みは、スケジュールやルール、慣行など全般、さらに情報伝達方式なども含みます。高校進学率が急速に高まった1960年代に整備が始まり、職業紹介業務を学校が担い始め、一人一社制、WEBサービスの開始、そして複数応募制導入など、いくつかの大きな変遷を経て現在に至ります。

高卒就職に関するルールや取り決めは、例年2月中旬に厚生労働省が主催する「高等学校就職問題検討会議」(以下、中央会議)において原案が作られます。その原案が年度明けの4月から5月初旬に都道府県ごとのハローワークが主催する同名(または「連絡協議会」)の会議で審議検討され、各地の申し合わせ事項として発効するという流れになっています。

検討会議に出席してはみたけれど……

早期離職率は改善傾向にありますが、相変わらず最低賃金周辺の求人があふれ、高卒求人WEBサービスの使い勝手も改善されず、私たち教職員の過大な労働負担に変化はありません。年毎年、中央で、さらには全都道府県で検討会議が行われているのに、いっこうに改善が進まないのは何故でしょうか?

都道府県ごとの会議に、私も何度か出席したことがありますが、全くつまらない、会議とは名ばかりの全くの上位下達の連絡会でしかありませんでした。何故かと言えば、この年度初めの会議の頃には、肝心な部分はほぼ全て決まってしまっており、議論の余地などない(ような)議事運営だったからです。

前年度の内定状況の説明が延々と続き、次いで中央会議で決まった申し合わせ事項の確認、最後の方はほぼ時間切れ。みんな早く帰りたくなってきた頃に「何かご意見ありますでしょうか?」といった具合。

前向きな議論など起きないですよね。というかむしろ、それが主催者の狙いなのかと勘ぐりたくなるほど。それはさておき、こんな形骸化された会議が毎年繰り返されているのは事実で、よって、高卒就職問題の改善は進まないのであります。

高卒就職問題の本質は枠組みそのものにあり

そもそも、高等学校就職問題検討会議の存在目的は、職業紹介業務を担う教職員のサポートです。WEBサービスだって最初は教職員の負担軽減を目的に作られたものですよ。しかし、この枠組みの見直しには現場の声は届きにくい。

高卒就職問題の本質は実はそこにあります。現場の意見が出にくく、積極的に吸い上げるようシステムが確立していない。会議の場で手を挙げて意見を言う人が変な目で見られるような会議の持ち方も実際にある。

そのせいでしょうか、変えることが可能であることはおろか、意見を言う権利の認識さえない先生が少なくないように思われます。この状況を早くなんとかしないといけません。

ある新聞記者が厚労省の担当官にWEBサービスの改善および一般への開放はできないのかと質問をぶつけた際、「要望があれば検討するが、今のところそういった要望は多くない」との回答があったそうです。ということですので、高卒進路digitalご購読の先生がた、是非、意見をたくさん出しましょう。とくに以下2点。

・求人情報提供を個別PDFではなく、完全なデジタルデータベース方式に
・ログインID・パスワードの生徒への配布、あるいは廃止(つまり一般公開を)

この2点が実現すれば様々な変化が起こります。まず、進路の先生がたの負担が格段に軽減できます。次いで、求人側の「まっとうな」競争が促進され、高卒就職に限らず若年層全体の待遇条件が向上します。それに引っ張られる形で地域別最低賃金が上昇することが見込まれます。

高等学校教育研究会進路指導部会を活用しましょう

現場からの意見や要望は、都道府県教委や地域ハローワークを通じて出すべきだと思います。現状では全国的に確立した筋道があるようには思えません。もうひとつのルートとしてはいわゆる高教研の進路指導部会があります。地区・都道府県・ブロック・全国と連なる進路指導関係教員の組織ですので、本誌読者の先生がたも多く所属されているでしょう。

その中の就職指導分科会を活用しましょう。ここで出た意見や要望は順次取りまとめられ、最終的に前述の中央会議の検討材料の一部になりえます。公式・非公式を問わずあらゆる機会を捉えて要望を出しましょう。

進路指導の先生がた、あらゆる機会を捉えて意見・要望をどんどん出しましょう。あなたが真面目に頑張って、心の中で嘆いているだけでは何も変わりません。次の世代に自分たちが負った我慢を引き継ぐのはもうやめましょう。人口減少社会において問題の先送りは罪です。今の私たちが改善の努力を怠ってはいけないのです。

厚労省は11月末頃から2月の中央会議の準備を始めます。今の私たちの意見・要望を来年度の枠組みに反映させるには、できれば11月末、遅くとも12月中に届ける必要があります。繰り返しますが、先生がた、内輪で嘆いているだけでは何にも変わりません。意見を出しましょう。