高校教員有志による高卒就職問題の研究会「TransactorLabo」(代表‧石井俊教諭)による公開求人の分析企画【求人票を読み解く】。今回は31年ぶりの求人倍率3倍超えについて言及します。

寄稿=石井俊(TransactorLabo代表)

求人倍率倍3倍超えの中身を見てみると……

9月9日に厚生労働省が7月末時点の高卒就職状況をまとめ、公表しました。詳細資料からは都道府県別の数字、産業種別の求人数も確認できます。高卒就職関係者必見の資料です。

7月末時点で求人数40.1万人(前年比16.2%増)に対し、求職者数は13.3万人(前年比8.0%減)。全国の求人倍率は3.01倍‼ 9月時点でははさらに高くなっているはずです。

求人倍率が3倍を超えるのは1992年以来のようですが、単純にそれだけ企業の高卒採用が活発化している!とは言い切れません。

下図を見てください。求人数(青色)・求職者数(黄色)・求人倍率(赤色)の推移です。

 

 

ひときわ目立つ山が前回、求人倍率3倍を超えた1992年3月卒の年度です。7月末時点の求人数は実に152.3万人で、求職者数は49.5万人です。

同じ「求人倍率3倍超え」と言っても、バブル期の求人数の三分の一以下で、景気回復と大量定年退職、生徒数減少に進学率の上昇による人手不足による需要に過ぎません。

 

地方の若者を吸収することは不可能

修学支援制度の拡充などで、進学を望む生徒が進学しやすくなったことは教育現場としてはありがたいことです。しかし、この流れがこのまま続いてもよいのかどうかというと話は別。日本全体の生産力がどんどん落ち込む懸念が大きいからです。

工場地帯の京浜地域(東京・神奈川)の求人倍率は5.87倍、京阪神地域(京都・大阪・兵庫)は4.37倍です。これまで地方の若者を吸収することで労働力を確保してきましたが、それももはや不可能になってきています。生産効率アップの努力にも限界はあるでしょうから、労働力不足により、ブラック労働が増えたり生産を抑制せざるをえないといった事態が増える懸念が高まっています。

外国人労働者依存が高まるばかりですが、地方の中小企業および地域社会が多数の外国人を受け入れる準備を整えるにはまだまだ時間が必要です。外国籍の子どもたちへの教育福祉をしっかり整備しなければひどい格差社会が生まれてしまいます。

GDPの落ち込み、国家財政困窮、教育福祉投資の縮小、公共の福祉の低下、格差社会の進行……今回の資料を眺めていたら、こんなことを考えてしまいました。たかが高卒就職と言うなかれ。実は、我が国の近い未来の問題を写す鏡なのであります。