就職の地元志向が高まっている。世代独自の気質に関係するのか。「さとり世代」「マイルドヤンキー」などの流行語を生み出した若者研究の第一人者である原田曜平・芝浦工業大学教授に話を聞いた。
編集部=澤田晃宏
増える睡眠時間。「24時間、戦いません」。
――現在の高校生の年代はアメリカを中心とした欧米諸国では「Z世代」と呼ばれます。
Z世代に明確な定義はありませんが、おおむね1990年代中盤から2000年序盤以降に生まれた世代を指します。日本では学力低下から2008年に学習指導要領が改訂され、「ゆとり世代」の下に脱ゆとり教育を受けた「脱ゆとり世代」(諸説あるが1996年生まれ以降)が誕生しました。Z世代の年齢のほぼ一致し、「日本版Z世代」と言えます。
――Z世代の特徴は?
彼らを紐解くキーワードが「チル」と「ミー」です。一人っ子が多く、少子高齢化による人手不足で労働力としての希少価値がこれまで以上に高い。不安や競争が少ない生活を送ってきたため、マイペースに居心地よく過ごすチルと呼ばれる価値観を好むのが特徴です。
チルを象徴するものの一つが睡眠です。民間会社の調査によれば、20代から30代前半の世代の睡眠時間がこの10年で1割程度増え、約8時間になったそうです。昭和から平成中期の頃の若者のように徹夜で仕事をするとか、朝まで繁華街で遊ぶといった若者もいなくはないですが、少なくなっています。働き方改革が叫ばれ、ワークラフバランスが重視される世の中で生きてきた彼らは、居心地のいいプライベートの生活や、リラックスタイムの質を重視します。
超売手市場でアルバイトに落ちた経験もなし
――確かに新卒高校生の採用でも、賃金より休日数を気にする学生が増えている気がします。
昭和世代からすると、Z世代はストレス耐性が弱い、我がままなどと思われるかもしれませんが、彼らはアベノミクス以降の超売手市場を生きています。アルバイト面接でも落ちた経験は少ないでしょう。
大学生の就職活動では、学生が企業に応募するのではなく、サイトに掲載された学生のプロフィールを見て、企業からアプローチをする「逆求人サイト」が盛り上がっています。すでに終了していますが、就活生が企業から焼肉を奢ってもらう代わりに、企業の話を聞くというサービスまでありました。
ただ、コロナ以降はこの完全な売り手市場の状況も変わっていくかもしれません。
――新卒高校生の採用でも高い求人倍率で、企業は期待通りに採用できずに困っています。原田さんが人事担当者なら、どんなアプローチをしますか?
チルを意識して、彼らのプライベートを侵害しない、充実させることが重要です。あるベンチャー企業が動画配信サービス「Netfix(ネットフリックス) 」の利用料を福利厚生に入れたところ、応募が増えたそうです。
コロナ下でビデオ通話をすることが増え、美容に対する意識が高まっています。ただでさえコロナ下で運動不足になっているので、美容代や健康促進のための福利厚生を準備するのはZ世代に響くかもしれません。
アットホームな会社です。社員旅行に行ったり、週末も社員同士でバーベキュー大会に行ったりしていますといった昭和的なノリはもう歓迎されません。
叱るなどもってのほか。「9割褒めて1割は改善提案」
――もう一つのキーワード「ミー」とは何でしょうか?
彼らは幼い頃からスマートフォンに触れ、中高校生のうちからInstagram(インスタグラム)やTikTok(ティックトック)など、複数のSNSを駆使するデジタルネイティブ世代です。自己承認欲求と発信欲求が強く、ミー(自分)意識が顕著です。
――Z世代の上の世代であるゆとり世代も、デジタルネイティブ世代と言われます。
厳密に言えば、彼らは「ゲラケー第一世代」です。パソコン並みの機能があるスマホとは違い、画面も小さい。SNSの先駆けであるmixi(ミクシィ)や前略プロフィールは、人間関係ツールがメインでした。「mixi八分」というキーワードが示すように、SNS上で叩かれたくないという「同調圧力」が強くなりました。
一方の「スマホ第一世代」のZ世代に広がったLINEにはブロック機能があったり、インスタグラムに鍵機能があったり、嫌な人と関わらずに済みます。同調圧力を感じることなく、伝えたい情報を限られた人に伝えられるようになりました。自己承認欲求と自己ブランディングの発信欲求が強くなります。
――建設業など、新しい世代への対応に苦慮する企業は少なくありません。
多くを語らず、俺の背中を見て学べといった昭和スタイルの上司は、180度、考え方を変えなければなりません。社員の大半がZ世代のあるベンチャー企業の人事担当者は、Z世代への接し方の鉄則は「9割褒めて1割は改善提案」と話していました。「見て学べ」どころか、褒めもせず、語りもしない上司は「育児放棄」ならぬ「若手放棄」のレッテルを張られます。
コロナ下でテレワークが広がりましたが、子育て世代に歓迎される一方、対面で細かく仕事を教えて欲しいZ世代はテレワークを望まない人が多いのです。
薄れる都会の魅力
――県外就職者が減少している理由には、地元でまったりと暮らしたいという、Z世代のチル気質が関係するでしょうか?
コロナの影響が大きく、彼ら世代の気質が関係しているかはわかりませんが、幼い頃からスマホで世界とつながっている彼らからすれば、都会の魅力が薄まっているのは確かでしょう。それでも、田舎に比べ、都会のほうがオシャレなカフェなど、「映える」ものは多い。
――保護者の意向を受け、地方に留まる例も増えています。
親と仲がいいことは基本的に素晴らしいことですが、少子化で一人っ子が増え、母子密着現象が進んでいます。両親の若い頃の写真を自分のSNSで公開することが流行っていますが、一定の世代では信じられないでしょう。仲がよい異性を母親に合わせ、ゴーサインが出たらつき合うという話もZ世代からはよく聞きます。
「思春期は反抗期」は、今は昔。SNS上では仲のいい友達から、家庭では親からたくさんの「いいね」をもらう。そうして、自意識の高い若者が多いのが、Z世代の特徴でしょう。
はらだ・ようへい/1977年東京都生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーなどを経て、現在はマーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授。著書に『近頃の若者はなぜダメなのか』(光文社新書)、『さとり世代』(角川oneテーマ21)など多数