高校教員有志による高卒就職問題の研究会「TransactorLabo」(代表‧石井俊教諭)による公開求人の分析企画【求人票を読み解く】。今回は7月時点の公開求人の月額賃金の平均値を昨年と比べ、検証します。

寄稿=石井俊(TransactorLabo代表)

未曾有の売り手市場に対し賃金は?

当会では高卒就職市場の現状を把握することを目的に、高卒就職情報WEB提供サービスにアップされている公開求人情報を独自のシステムを使って集め、データベース化するという調査をやっております。

新卒高校生が未曾有の売り手市場となりそうななか、気になるのは月給の増減。昨年「2021年7月16日時点」と今年「2022年7月3日時点」の公開求人の平均値を比較してみました。下がその結果です。

全体では約3%の上昇。東京都が唯一昨年より低くなっていますが、8月9日時点で再調査すると全職種の平均賃金は19万6,154円。2021年7月16日時点に比べ、2,274円増(1.2%)という結果になりました。

年間休日は110日以上は欲しい

さて、先生がた、ご覧になってみていかがだったでしょうか。

「これだけ上がったんだ」。あるいは「これだけしか上がっていないのか」など、様々だろうと思います。私の率直な感想は「やっぱりな」です。

やっぱり、高卒給与を「最低賃金ラインより少しいいぐらい」に設定している求人者が多い。

また、この月給平均というものは単なる目安の一つぐらいの役にしか立ちません。何故かというと、求人票ごとに年間休日数、つまり労働日数がまちまちだからです。

たとえば、月給が同じく18万円であっても、月当たりの労働日数が20日の求人票もあれば、23日とか24日のものもあります。20日と24日では「18万円÷20日=9,000円」と「18万円÷24日=7,500円」になり、同じ18万円でも1日当たりで計算すると1,500円もの差が出ます。

だから月給だけで判断するのはダメで、月当たり労働日数をチェックしないといけません。このことは生徒たちにしっかり教える必要があります。

年間休日数は週休2日+正月3日+盆休み3日で約110日。ここから標準的な月当たり労働日数を出すと「(365日−110日)÷12=21.3日」となります。

待遇条件良し悪しの判断の基本は「収入÷拘束時間」ですが、一枚一枚の求人票をじっと見ているだけではなかなかわかりません。パッと見て判断がつくようになるまでは相当数をこなす必要があり、先生たちだって大変なのですから、ましてや求人票を初めて見る生徒たちにはほぼムリです(この辺を改善してほしいものですが・・・)。

高卒就職市場の待遇相場をわかりやすく

なんとかして生徒たちがわかりやすい資料を作れないものかと編み出したのが、待遇分析ドットグラフです。

 

縦軸が年間休日数、横軸が月給、点ひとつが一枚の求人票を意味します。岐阜県を例にあげたのは、岐阜県がいろいろな意味でど真ん中だからという理由です。これは岐阜県の7月の公開高卒求人全求人票(全職種)ですが、この他に建設・製造・運輸・飲食宿泊・医療介護の5産業種分析図を全都道府県分作っています。当会のホームページからダウンロードできるようにしてあります。是非ご活用ください。

今年度の生徒にはもう賞味期限切れかもしれませんが、二次応募以降、次の学年の指導には有益だと思います。また、この資料は求人事業者にあげるととても喜ばれます。プリントを進路指導室に置いておいて、学校訪問の企業の方々へのお土産に使ってください。

企業には高卒就職情報WEB提供サービスへのアクセス権はなく、他社がどのような待遇で求人を出しているのか、知る術がありません。待遇の相場観を知ることで、待遇を上げる企業も増えてくるでしょう。その積み重ねが高卒就職市場を健全化の力となり、回りまわって未来の日本への貢献につながるはず、そう私は思います。