元高校教員で、教育ジャーナリストの朝比奈なをさんが『月刊高校教育』(学事出版)誌上で連載中の「高校教育のアキレス腱」を本サイトでも掲載します。
変革期にある専門学校
高卒生の進路にとって専修学校専門課程、いわゆる専門学校の存在は大きい。文部科学省の令和3年度「学校基本調査(確定値)」によれば、昨年、高校卒業者の24%が専門学校に進学している。全国の専門学校数は2754校、うち約93%が私立であり、全学生数は約60万人となっている。
専修学校専門課程(以下、一般的呼称の専門学校と表記する)は、1976年に学校教育法に新たに追加された学校としてスタートした。当時、増えつつある大学進学希望者への代替の受け皿という役割もあったと、この分野の専門家は指摘する。
その後、設置基準が大学と比較して緩い専門学校は時代の流行や高校生の興味・関心を敏感にキャッチして専攻分野を増加・細分化し、変化し続けてきた。
この専門学校に対して、約10年前から文科省が改革に乗り出している。学校教育法には、これらの学校の目的として「職業等もしくは実際生活に必要な能力の育成、又は教養の向上を図る」(124条)とあるが、その中で特に職業教育の側面を強化し、中核的専門人材の養成と若年層の就労セーフティネットとしての役割を強める試みが現在行われつつある。
具体的には、2013年に従来以上に実践的で企業との連携を強めた「職業実践専門課程」の創設を促す規定が出された。そして、今年3月には、新課程での実践分析を含んだとりまとめを「専修学校の質保証・向上に関する調査研究協力者会議」が発表した。大学教育や受験方法の改革ほどは知られていないが、専門学校もまさに今、大きな変革期なのである。
専門学校職員が語る本音
約10年前から始められた改革で、専門学校の現状はどうなっているのか知りたくて、今春、複数の専門学校職員に取材を行った。実は専門学校の取材では建前論や営業トークに終始してしまうことが多いのだが、今回、少しは本音を聞き出せたように思う。そこで、専門学校側が高校をどう思っているか、知り得た情報の一部を紹介してみたい。彼らの取材から筆者が一番感じたことは、高校との距離感だった。
専門学校職員は学生募集のために高校訪問をするが、その際に話をほとんど聞いてくれないと嘆いていた。「最初に名刺を見て、専門学校かと一段下に見ている印象を受ける。そこで、大学と提携していることを話すと少しだけ聞いてくれる」と苦々しく語った人もいた。
彼らが受ける高校教員の印象は間違っていないだろう。専門学校進学は大学進学ほど高校のセールスポイントにはならないので、多忙な中で時間を割きたくないという高校教員側の気持ちもわかる。また、進学した卒業生の動向等から専門学校への不信感があることも否めない。しかし、専門学校側の次の指摘は正鵠を射ているのではないだろうか。
専門学校の教育の質は残念ながら今でも「玉石混交」状態にある。公表されている入試スケジュールを無視した「青田買い」も存在するし、「入学生1人=300万円の収入」としか見ない学校も存在すると取材でも耳にした。その一方、国家試験に受からなかった学生を卒業後も無料で授業に参加させる学校や、卒業生の就職を最後の1人までサポートしようとする学校も存在する。「玉石混交」だからこそ、生徒に益する正しい情報を入手できるように高校側も努力するべきではないのだろうか。
望まれる、オープンな交流
入試方法が面接と出願書類だけの専門学校が多いが、国家試験合格を目指す分野の専門学校を中心に学力試験等で志願者の学力把握に努めている学校もある。ある学校は、学校推薦型選抜の指定校推薦の際に、志願者在籍校の受験偏差値を見て3ランクに分け、その後の専門的学修への適応状況を追跡調査していると語った。
さらに、最近の学生の学修状況から国語力の必要性を感じたため、総合型選抜を含むすべての入試に現代文を課すようになった学校もある。この他、入学前に相当量の課題プリントを入学予定者に課し、5月中旬にその理解度を確認するテストを行う、高校で必要科目を履修していない学生に補習を行う等大学並みかそれ以上に学力向上のための努力をしている学校も存在する。
このように教育機関という明確な目的意識を持つ学校がある一方、企業的性格の強い学校もある。あまりに性格が異なる学校が存在しているからか、専門学校全体の中退者総数や分野別中退率など、高校側が知りたい情報は公表されない。
コロナ禍の中、大学入試改革や学生支援機構の給付型奨学金の新設等、近年、高校生を取り巻く状況の変化は大きい。その中で、高卒の専門学校進学者は、この5年間で微増している。ここには、「専門学校は就職に強い」という、詳細な検証抜きに一般に流布しているイメージの影響が見える。
文科省も昨年3月から「専修学校#知る専」というプロジェクトで専門学校の情報発信を開始している。これが、以前の「#教師のバトン」のようにはならずに、専門学校と高校および高校生のオープンな交流の場となることを期待したい。
※本記事は「月刊高校教育」2022年7月号の掲載記事です

朝比奈なを
東京都出身。教育ジャーナリスト。筑波大学大学院教育研究科修了。公立高校の地歴・公民科教諭として20年間勤務。早期退職後、大学非常勤講師、公立教育センターでの教育相談、高校生・保護者対象の講演活動に従事。著書に『置き去りにされた高校生たち』(学事出版)、『ルポ教育困難校』(朝日新書)などがある