教育エジソンの異名を持つベテラン進路指導教諭が、志望動機を考えるためのオリジナルツールを開発。その狙いと使い方を解説する。

寄稿=山崎茂雄(東京都立桐ヶ丘高校・進路指導部主任)

私が勤務する都立桐ヶ丘高校(東京都北区)は、不登校経験などのある生徒でも再スタートできる、三部制定時制高校「チャレンジスクール」です。前任校を含め、チャレンジスクールでの勤務は16年目になります。生徒が自信を取り戻し、成長して未来へ向かう足がかりとしてのキャリア教育・進路指導に力を入れてきました。

本校生徒の進路は大学・短大、専門学校がそれぞれ30%弱、就職が約15%、その他はアルバイトなどを続けながらの進学準備や就職準備です。いわゆる「進路多様校」で、一律の進路指導は通用しません。

 

教育エジソンの異名を持つ山崎先生

本校に限らず、卒業を控えた高校生たちは否応なく迫る選抜日程の中で、迷い、悩みながら情報を集めて進路を選択し、対策を進めていきます。教員はそれに寄り添う伴走者ですが、担任の先生方の進路相談の様子を見ていると、限られた経験だけで場当たり的に応じている印象を受けます。

総合型選抜、学校推薦型選抜で進路を決める生徒が増えるなか、志望理由書や面接試験の対策用ワークシート類は、無料冊子やネット上に溢れています。それらは便利ですが、数多くの質問にやみくもに答えを書き込んでも、生徒たちの不安が解消し、やる気が高まるとは思えません。

自身の成長を見える化する

そうした問題意識から開発したのが「志望動機シート」です。生徒自身が進路目標の発見と自己理解を手探りで進めていくプロセスに寄り添えるようにと考えました。

 

これを見れば、志望理由書や面接試験の対策で考えるべき項目の関係が一目でわかります。図の下から上へと生徒が成長していくイメージです。下段の「今の自分(個性と自信)」が中段の「進路先の自分」で仕事や学業に取り組み、上段右の「将来の自分」へと成長していく。そのとき、左上の「進路志望先」が「進路先の自分」を実現する場として相応しいのかを考えることが大切です。5つの空欄の関係を眺めて、書きたいところ、書けるところから記入し、気ままに少しずつ埋めていきます。

それを教員や友人に見せて意見を聞いたり、質問してもらったりして、さらに書き込んでいくと、考えが整理され、自己理解が深まっていきます。とくに進路先の情報不足に気づくので、詳しく調べることにつながります。そして、選んだ志望先が自分の希望を実現する場として本当に相応しいのか、冷静に考えることができます。

進路に向けて考えるべきことの全体を視野に入れつつ、どこからでもアクセスできる。今は棚上げしている問題も視野の隅に意識しつつ、迷いながらも進んでいけるのがメリットです。

シートを見ながら面談する

進学でも就職でも使えるので、進路相談に来た生徒に私はまずこのシートを渡し、「書いてきてから話そう」と伝えます。このやり方と比較すると、「志望理由書」をいきなり規定字数で書かせ〝添削〟する指導の無謀さがわかります。

これを使って進路面談をしたある先生は、生徒の考えに焦点を当てて面談を進めることができ、教師と生徒のコミュニケーションも深まったと報告してくれました。

個々の欄は狭いので、書ききれないものは別紙に書きます。それを整理してバージョン2、3と新たなシートに書き直していくと、自分の中に志望動機がしっかりとまとまってきます。それが、志望理由書や面接試験対策の核となるのです。

このシートは、生徒・教員が活用しやすいように校内冊子『進路の手引き』に載せ、そこから「志望理由書」の書き方につなげています。

さらに「面接応答虎の巻」で、面接準備の考え方を解説しています。特に大量の想定質問の海に溺れそうな生徒たちに、核となる「3つの根本的質問」を示し、それに自信をもって答えられる自分を作っていくことが大切だと伝えています。

これらはいずれも私のホームページ「教育エジソン」でダウンロードできます。高卒就職指導に特化したセットもあります。すべて、学校現場であれば自由にご活用いただいて結構です。