3K職のイメージが強い介護職だが、人手不足が深刻化するなか、断続的な処遇改善が進む。「地方に行けばむしろ高給職」といった声も聞こえてくる。新卒高校生の積極採用に動く業界だが、実際はどうなのか。現場を歩いた。

編集部=澤田晃宏

平均月収は間近6年で3万7000円アップ

介護士を養成する北越地方の専門学校幹部が気をもむ。

「賃金が上がること自体は喜ばしいことですが、特定の職種が対象だったことで、低賃金のイメージがつかないか心配です」

「成長と分配の好循環」を掲げる岸田文雄首相が、介護職員や保育士、看護師の待遇改善に乗り出した。介護職員や保育士は現行収入の3%程度に当たる月額9000円、看護師は同1%程度の4000円引き上げた。内閣官房によると、年間賞与の十二分の一を含めた平均月収(2020年・役職者を除く)は、介護職員が29万3000円、保育士が30万3000円、看護師は39万4000円だ。

 

注1:月収とは、賃金構造基本統計調査における「きまって支給する現金給与額」に「年間賞与その他特別給与額」の1/12を足した額
注2:「介護分野の職員」は、令和元年までは「ホームヘルパー」及び「福祉施設介護員」を、令和2年は「訪問介護従事者」及び「介護職員(医療・福祉施設等)をそれぞれ加重平均したもの
注3:「全産業」は、産業別データの「産業計」から役職別データの「役職計」を除いて算出したもの

 

全職種の平均は35万2000円。確かに保育士と介護士の賃金は全体より低い水準にあるが、先の幹部はこう話す。

「介護職員の賃金は今回の賃上げが初めてではなく、2009年以降、処遇改善加算の創設や拡充により、断続的に引き上げられています。特に地方で仕事を探すとなると、介護士は逆に高収入の仕事になるでしょう」

確かにこの幹部が話す通り、2014年時点の介護職員の平均月収は25.6万円で、間近6年で3円7000円上がっている。先の内閣官房の数字を年収ベースで見ると、介護職員の年収は351万6000円になる。厚生労働省は2020年から学歴別の賃金の調査(賃金構造基本統計調査)結果を公表しているが、高卒の平均年収は271.5万円だ。同調査によると、高卒の賃金がピークになる55~59歳でも年収は314.5万円で、介護職員より低い水準にある。

2040年度に約69万人の介護職員が不足

一般的に専門学校などの養成施設経由で職に就く看護師や保育士とは違い、新卒高卒で就職するケースも多い介護職。高卒後の就職先としては、決して低賃金の仕事ではない。

また、2019年には、長く働いても賃金が上がらないという不満に応える形で、政府は「特定処遇改善加算」を新設。勤続10年以上の介護福祉士を基本とした「経験・技能のある介護職員」に対し、月額平均8万円以上(賞与のほか各種手当等も含んだ額)の賃金改善か、賃金改善後の年収の見込額が440万円以上となる加算制度を整えている。

こうした待遇改善の背景にあるのが、深刻な人手不足だ。2020年度の有効求人倍率は1.01倍だが、職種別に見ると介護サービスは3.25倍とはるかに高い。厚労省は2025年度には現状と比べ約32万人、全国の65歳以上の高齢者がピークとなる2040年度には約69万人の介護職員が不足するとしている。

特別養護老人ホームで働くネパール出身の外国人技能実習生

日本人だけでは労働力不足を補えないと、非熟練労働者を受け入れるための在留資格「技能実習」や「特定技能」での受け入れが進み、目下、外国人介護士が急増。介護労働安定センターの調査によれば、外国籍労働者を受け入れている介護事業所数は2018年の2.6%から、8.6%(2020年)に上昇した。この深刻な人不足は、裏を返せば「職を失わない安定した仕事」(先出の幹部)と言える。

初年度から月給が22万円を超える

2022年4月、大阪市旭区の社会福祉法人清水福祉会が運営する特別養護老人ホーム(以下、特養と表記)「城東こすもす苑」(大阪市城東区)を訪ねた。

介護施設では施設種ごとに適正なサービスを提供するための「人員配置基準」を国が設けている。特養の場合は「入居者3人に対して介護職1人」となるが、同社はより多くの介護職員を配置している。人事担当の竹位英剛さんはこう話す。

「人員配置基準通りの職員数だと、個々の職員が希望する日に休みが取れなくなります」

同社は継続して積極的な高卒採用を行い、働きやすい環境作りに力を入れている。無資格・未経験で入職後、実務経験を積んで介護福祉士資格を取得し、管理職として活躍する高卒社員も少なくない。

低賃金のイメージが強い介護職だが、処遇改善が進み、新卒高卒の待遇は年々上がっている。積極的な高卒採用を行う同社の場合、2022年卒では月収22万500円(夜勤手当等含む)。年間休日数も107日から110日に増えたという。

「先輩がたくさん働いていたから」と入社理由を話す美浦さん(写真左)と先輩の海老谷さん

城東こすもす苑で働く海老谷紀恵さん(24歳)は、入社7年目を迎える。幼少から「人のためになる仕事に就きたい」と、福祉科のある明誠高校(島根県益田市)に進学した。特別養護老人ホームは、食事や排泄など身の回りのことほぼすべてに介護が必要な、介護度の高い高齢者が対象になる。

「看取りまで添い遂げることも多いなかで、認知症の方でも自分の名前を覚えてくれていたり、ともに時間を接するなかで、喜びを感じる場面は多い」

そう、仕事のやりがいを話す。同じく明誠高校出身で、同特養で働く美浦穂乃栞さん(20歳)は、いつかは地元の島根に帰って働くことも考えている。

「介護の仕事は場所を問わず働き先があるから安心です」

高校の進路現場の介護職に関するイメージは決していいとは言えない。ある社会福祉法人の人事担当者はこう愚痴る。

「不人気の3K職というイメージが強く、年が明けてから最後まで進路が決まらない学生を本人の意思とは別に紹介してきたり、介護を最後の砦とでも思っているような先生もいる」

着実に待遇改善が進む介護業界。進路現場にもイメージのアップデートが求められる。

※本記事は「高卒進路」2022夏号の掲載記事です

社会福祉法人「清水福祉会」/人事担当の竹位英剛さん。積極的な高卒採用を進めている。種類の違う様々な老人福祉施設を経営。積極的な高校採用を続ける。新卒の約50%が府外出身者で、低額の社員寮を準備している。充実した研修制度を理由に入社する学生も多い。外国人介護士も多数、活躍している