外国にルーツを持つ生徒たちと家族のための教育支援事業をする認定NPO法人「多文化共生センター東京」(東京都荒川区)は、日本語力が十分ではない状況で来日した児童・生徒に対する学習支援を行い、彼らの高校受験を支援する。その高過ぎる「高校受験の壁」と、外国にルーツを持つ生徒たちが定時制高校に集まる理由をレポートする。
編集部=澤田晃宏
入試対応に自治体間格差
同NPOでは、これまで、中国、フィリピン、ネパールなど、約30か国・地域にルーツを持つ1155人以上(2020年3月時点)の生徒たちを支援してきた。
活動の中心は「たぶんかフリースクール」の運営だ。母国で中学課程を修了した15歳以上の学齢超過の生徒や、義務教育年齢でも学校にすぐに編入できない子どもを対象とする。授業は1日5時間、週4日間ある。日本語だけではなく、高校受験に向けた教科学習をする。同MPOの枦木典子・代表理事は、こう強く指摘する。
スクールでは、日本語のほか、数学や英語の教科学習はあるが、国語の授業はない。必要がないのではなく、お手上げなのだ。
同NPOによれば、国語の平均点は都平均が69.5点だったのに対し、スクールの生徒は15.8点。逆に英語は都平均が58.1点に対し、スクール生は76.9点だった(2012年度)。国語の試験では選択肢問題ぐらいしか得点が見込めず、すべての選択肢で「ア」と選ぶようにアドバイスを送るなど、少しでも得点が出るような指導をするしかない。

授業の様子=認定NPO法人「多文化共生センター東京」提供
彼らの前に立ちはだかる「高校受験の壁」だが、試験問題の漢字にルビを入れたり、回答時間を延長したりするなど、入試に特別措置を設ける動きはある。一般とは別に外国にルーツを持つ生徒たちの特別入学枠を設ける自治体も少なくない。例えば東京都の場合、来日3年以内の外国籍生徒を対象に、面接と作文による特別枠の入試を実施している。日本語と英語での受験が可能だ。
「生徒の大半が特別枠を目指しますが、毎年定年を上回る応募があります」と枦木代表は指摘するが、そうした「措置」と「枠」があるだけ救われる。措置はあっても枠がなかったり、またはその逆だったり、高校受験の対応には自治体によって差があるのが現状だという。
高校受験の壁は、外国籍の子どもたちだけの問題ではない。枦木代表が指摘する。
文科省によれば、日本語指導が必要な児童生徒数は5万8353人(2021年)。そのうち、外国籍は4万7627人で、日本国籍は1万726人だ。日本語指導が必要な中学生の進路状況を見ると、全中学生等の高校進学率が99.2%なのに対し、日本語の指導が必要な中学生等は89.9%だった。
外国人が多く暮らす自治体で構成する「外国人集住都市会議」が18年3月に中学を卒業した811人の外国籍生徒の進路を調査したところ、全日制高校への進学率は62%にとどまったという調査結果もある。
高い非正規就職率の理由
文部科学省は19年、外国籍児童に関する初の全国調査を実施。義務教育段階の年齢の外国籍児童12万4049人のうち、18・3%にあたる2万2650人が「不就学状態」であることがわかり、世間を騒がせた。自治体による就学状況の把握が進み、最新の調査(21年)では7.5%に当たる1万46人に半減したが、課題は日本語教育であることは間違いない。
高校受験という高いハードルを越えても、日本語の壁は立ちふさがる。日本語指導な必要な高校生は10年間で2.7倍と急増しているが、現場の対応は追い付かない。結果、文科省の調査によれば、日本語指導が必要な高校生等の中退率は、全高校生平均1%を大きく上回る5.5%に上る(2021年度)。
日本語を母語としない親子のための多言語高校進学ガイダンス実行委員会東京などの活動に関わり、都立高校の定時制課程で外国につながる生徒の支援に取り組んできた町田高校定時制課程の角田仁教諭は話す。
さらに大きな壁となるのが就職だ。就職者における非正規就職率は全高校生平均で3.3%だが、外国にルーツを持つ生徒たちではその約12倍の39%に達する(2021年度)。なぜ、非正規就職率が高くなるのか。
そうしたなか、学校の進路指導室を介さず、自身のルーツの国内コミュニティのなかで仕事を見つけたり、学生時代のアルバイトをそのまま続けたりする生徒が少なくなく、結果として非正規就職の割合が大きくなると角田教諭は話す。
家族に紐づいた在留資格から、正社員として就職し、独立した在留資格を得る支援が必要だと、角田教諭は指摘する。
コロナ下で入国制限がかかるものの、政府は2019年に新たな在留資格「特定技能」を創設するなど、外国人労働者の受け入れを積極的に進めている。だが、足元にいる外国にルーツを持つ生徒たちの支援こそ先決ではないか。彼らの多くが不安定な職に就く現実を受け止める必要がある。
※本記事は「高卒進路」2022夏号の掲載記事です