コロナ下の求人減から一転、未曾有の売り手市場となりそうな今年度の高卒就活。山のように届く求人票を分類したり、ファイリングをしたり……今から憂鬱な気分になる先生がいるかもしれないが、進路指導現場の責任は重い。いかに大量の求人票からブラック企業をはじき、優良企業を見つけ出せるのか――。7月の就活解禁を前に、情報の基本となる求人票を見抜く5つのポイントを押さえておこう!
解説=高卒進路編集部
ポイント①年間休日は最低105日
まずは、年間休日数だ。1992年から国公立小・中・高校で段階的に導入された「学校週5日制」は、2002年度から完全実施され、現在の高校生は「週休2日」が当たり前だ。逆を言えば週休2日ない企業への就職は早期離職のリスクが高まる。
見極めのポイントは、年間休日が105日あるか否かだ。算出根拠は極めて単純で、1年は約52週間で、週休2日にすると105日が目安となる。首都圏の先生は、今時、週休2日すら休めない会社などあるものかと思うかもしれないが、地方を中心にまだまだ週休2日は徹底されていない。
保護者の理解も得られない。公務員が完全週休2日制になった1992年以降、民間企業にも週休2日が広がった。最新の調査(令和3年就労条件総合調査)によれば、「何らかの週休2日制」を採用する企業割合は83.5%に達し、年間休日数の平均は110.5日だ。
ポイント②最賃周辺の求人は避ける
お次は賃金だ。企業が民間の就活サイトに求人情報を出す大学生らの就活とは違い、新卒高校生への求人情報はハローワークが管理し、企業に高卒就職情報WEB提供サービスへのアクセス権はない。そのため、同業他社がどのような待遇で募集を出しているのかを知る術はなく、最低賃金に引っ張られがちだ。
賃金は「やりがい」や「将来性」といった言葉に惑わされず、企業がどれだけ人材を大切に考えているかを見極める重要な目安だ。最低賃金周辺の賃金で採用しようとする企業には、どうしても「高校生=安い人材」といった意識が見え隠れする。
最低賃金周辺の賃金とは、どのくらいの額を指すのか。ポイント①の「年間休日105日以上」を基準に考えたい。年間休日を105日とすれば、労働日数は260日だ。一日の労働時間を8時間とすると、労働時間は2080時間。これを単純に12か月で割ると「173.33333……」になる。
小数点以下を切り上げ、わかりやすく月の労働時間を174時間とし、これに都道府県別の最低賃金をかけた数字が、最低賃金周辺の賃金を見る目安と考えていいだろう。その金額が手当も含めた「月額」ではなく、「基本給」を超えているかがポイントだ。月額では長時間の固定残業代が含まれている場合もある。
基本給を低く設定する企業もあるが、一般的に賞与は基本給をベースに算出され、年収ベースでは低くなる。求人票に賞与の記載があるが、額面ではなく、「〇ヶ月」と書いている場合は要注意だ。それが基本給の〇ヶ月分なのか、月額賃金の〇ヶ月分なのか、確認が必要だ。基本給をベースとすることが多く、入社後に想定年収より低かったと気づいてからでは遅い。
もっとも、賞与を支払っていない企業もあるが、すき好んで選ぶ理由は一つもない。
ポイント③離職率は平均値以下か?
求人票裏面の「青少年雇用情報」の一つに、「募集・採用に関する情報」がある。企業全体の新規学卒者(中卒・高卒・専門卒・大卒)のほか、新卒者と同じ採用枠で採用した過去3年分の採用者数が記入されている。
注目すべきは離職者数だ。各年度の採用者のうち、企業は求人票を記入した時点の離職者の数が書かれている。どれだけ採用条件が良くとも、離職者数の多さには社内のパワハラ気質など、求人票では見えない問題が潜んでいると考えていい。
この離職者数の目安だが、平均的な離職率を参考としたい。厚生労働省の最新の調査によると、新規学卒者(2018年3月卒)の就職後3年以内の離職率は、中卒で55%、高卒で36.9%、短大などで41.4%、大卒で31.2%となっている。
求人票に記載されている「新卒等採用者数」は新卒高卒以外も含まれるが、できれば大卒平均の約3割を下回る企業が探し出したい。離職の低さは定着率の良さを意味し、職場環境がいいことの現れである。
「募集・採用に関する情報」には離職率のほかに、平均勤続年数と従業員の平均年齢の記載がある。令和3年賃金構造基本統計調査によれば、日本の平均勤続年数は12.3年で、平均年齢は43.4歳だ。こちらも合わせて参考にして欲しい。
ポイント④10年生存率は約7割
どんなに待遇がよく、定着率がいい会社であっても、会社に体力がなければ、不況などに耐えられない。上場企業であれば、会社の概況から設備や財務状況まで多岐に渡る情報が有価証券報告書などで公開されており、会社の体力を見ることができる。
ただ、新卒高校生に求人を出す企業の大半は中小・零細企業で、詳細な財務状況まではわからない。その点、求人票で最低限確認できるのが資本金だ。資本金とは、事業を始める際に、事業主が準備した資金のことだ。会社が所有する返済義務のないお金で、企業の経営状態を示す一つの指標になる。
2006年に会社法が改正される以前は、資本金が1000万円以上必要だったが現在は下限額が撤廃され、資本金1円でも会社を設立することができるが、金融機関からの信用力は低く、有事の際の運転資金も残らない。従業員数などの事業規模にもよるが、資本金の額が明らかに低い企業には注意したい。資本金の平均は約300万円だが、1000万円以上ある会社を見つけたい。
また、会社の体力を見るうえで着目したいのが設立年だ。資本金も少なく、創業したばかりとなると、不安が残る。中小企業庁の調査によれば、企業生存率は設立10年後で70%、20年後で52%となっている。参考にされたい。
ポイント⑤採用にかける思いの熱さ
求人票は各企業が同じルール、同じフォーマットで記載しているが、採用にかける思いの熱さを垣間見られる部分がある。
表面の「仕事の内容」、裏面の「補足事項・特記事項」だ。文字数の制限はあるが、制限いっぱい情報を書き込んでくる企業があれば、簡単な記述にとどまり、白紙のスペースが目立つ企業もある。少しでも会社のことを知って欲しい、高校生に魅力をアピールしたいという思いが強ければ、おのずと白紙スペースも小さくなる。企業によりスペースの使い方が異なるので、ぜひ見比べてみて欲しい。
ここまで、求人票を見る5つのポイント書いてきた。生徒のやりたい仕事や、適正に応じた仕事につなぐのが最も重要であることは間違いない。
ただ、その上で5つのポイントを確認することで、ブラック企業への就職を防ぎ、定着率の高い優良企業に繋ぐことができる。7月の就活解禁を前に求人票の解読術を会得しておこう。
※本記事は「高卒進路」2022夏号の掲載記事です