3K職場のイメージがぬぐい切れず、若手人材の人手不足に悩む建設業界。工業高校の学生も製造業に流れる。ただ、働きやすい環境と待遇を準備すれば、人は採れる。実態は人手不足ではなく、休日不足、それとも、賃金不足なのか――。

編集部=澤田晃宏

コロナ下でも建設業の求人数は減らず

足場仮設工事業を主力とする大阪府堺市の正分建設工業は4月、3人の新卒高校生を迎えた。今年、創設10周年を迎える同社の従業員数は35人。建設業界全体が若手の人材確保に悩むなか、3人の新卒高校生の採用は大成功と言っていいだろう。

建設業で働く労働者は現場の管理・監督をする「技術職」と、現場作業をする「技能職」に分かれる。なかでも技能職は60歳以上が全体の約25%を占める一方、29歳以下の労働者が約10%と高齢化が進み、深刻な人手不足に陥っている。

新型コロナ感染拡大の影響で、2021年3月卒の新卒高校生に対する求人数は前年比で約2割減少したが、建設業の求人数は減らなかった。

国土交通省「建設業を取り巻く現状について」より

最低でも年間休日は105日

正分建設工業の正分彦太代表取締役社長(37歳)は「特別なことは何もしていない」と話すが、同社の新卒高校生に向けた採用条件が、大阪府内の同業他社より高い水準にあることは間違いない。年間休日数は120日で、手当を含めた月給は21万円。新規学卒者に対する賞与実績も年間2か月ある。

正分建設工業の正分彦太(しょうぶん・げんた)社長

目を引くのが年間休日数だ。他産業では当たり前となっている週休二日が建設業では徹底されておらず、いまだ年間休日数が105日以下(週休2日以下)の求人は珍しくない。

結果、建設業の年間実労働時間数は全産業平均として比較して352時間、製造業と比較しても104時間長い(国土交通省「最近の建設産業行政について」参照)。大阪府下のある工業高校の進路指導担当教諭は、こう話す。

「建設業は早期離職率も高く、進路指導現場としては製造業を薦めてしまうのが現実だ。本気で高校生を採用したいなら、最低でも年間休日を105日にする必要がある」

こうした現状に対し、正分社長は平然とこう言ってのけた。

「今の学生は小学校のときから週休二日が当たり前。オンとオフのメリハリをつけないと、仕事の士気も下がります」

土日に仕事が入ることもあるが、その場合は必ず別日に代休を取らせる。休むより働いて稼ぎたいという社員には、そうした働き方を実現させている。

もっとも、新卒高校生は入社後半年間は、仕事があっても土日は必ず休みにしているようだ。

「少しずつ仕事に慣れてもらって、最初の半年間のなかで面談をします。とび工として入社しても、機材センターでの業務や事務職を希望すれば、その希望をできるだけ尊重したい」

社員の平均年齢が25歳

とび工は力仕事であるが故、職人としては高齢まで続けるのは難しい面もある。将来的なキャリアが描きにくいというのも技能職の人手不足の一因だが、正分社長はこう話す。

「施工管理技士などの資格取得をサポートし、将来的には現場監督として活躍したり、機材センターで梱包や運送の仕事に回ったり、年齢に関係なく活躍できる場所はあります」

工事部の宮崎翔豊さん

同社工事部の宮崎翔豊さん(23歳)は、現在入社6年目。年収は400万円を超える。すでに結婚し、子どもにも恵まれた。待遇には満足している。

「他社では自己負担のケースが多いですが、作業着や皮手袋などの消耗品などの支給品の多さは嬉しいです。作業着もダサいものはダメだと、社員みんなでカタログを見ながら決めます」

最低限の支給品以外は自己負担といった会社が多い

同社社員の平均年齢は25歳と若い。同工事部の東谷堅太さん(25歳)は、こう話す。

「社員旅行やバーベキュー大会、月に1度は会社負担の食事会もあり、活気があります」

工事部の東谷堅太さん

正分社長に「食事会には参加するのか」と尋ねると、

「私は参加しません。社長の文句を言いたいこともあるでしょう。風通しを良くし、不満が解消されれば、仕事のパフォーマンスも上がります」

そう言って、笑みをこぼす。

新卒高校生の採用に苦労する建設業界だが、こうして採用に成功する企業もある。3K職だからと言い訳はできない。

 

正分建設工業

2012年設立。とび・土工工事業を主力に、塗装工事業、解体工事業なども手掛け、総合建設業者として事業を拡大している。堺市内に3つの機材センターを持ち、とび工だけではなく、機材センターでも新卒高校生を採用している
※本記事は「高卒進路」2022夏号の掲載記事です