パチンコを中心に総合レジャー業として全国展開し、積極的な新卒高校生の採用も実施する「マルハン」(東京都千代田区)は、自社のホール・カウンタースタッフの接客技術を評価する「マルハンサービスグランプリ」(以下、MSG)を2017年から実施している。その第5回が5月17日、北海道のマルハン苫小牧駅前店であった。出場者3214人の頂点に立ったのは、青森県立板柳高校出身で、マルハン弘前石渡店の舘山耕大さん(34歳)だ。

編集部=澤田晃宏

サービス業の中でトップクラスのサービスを

新型コロナ感染拡大の影響で2019年のMSG第4回大会が中止になって以降、3年3か月ぶりの実施となった。この間に、マルハンは「カンパニー制」を導入。カンパニー制とは、社内の事業をそれぞれ独立した会社として扱い、意思決定に柔軟さと速さを持たせたり、独立採算制で業績を明確にしたりする経営スタイルだ。

大会前日に開かれた開会式の会場には、各店舗の期待を背負った出場者のポスターが並んでいた

MSG第5回大会は、中部北越・東北・北海道を管轄する「北日本カンパニー」から、3214人のホールスタッフが参加した。社員に限らず、アルバイトも参加する。誰もがマルハンの一番になれる。人事本部長の本間正浩さんは、大会の目的をこう話す。

「あらゆるサービス業の中でトップクラスのサービスを実現するという当社のビジョンを共に持ち、そのビジョン達成に向けたサービスレベルの向上、出場者を含めた全従業員のモチベーションの向上を目指しています」

北日本カンパニー各店で実施される店舗大会を皮切りに、エリア大会、ブロック大会を勝ち抜き、最終のマルハン苫小牧駅前店でのカンパニー大会に進んだのは21人。

実技審査の様子

お客様に事前告知したうえで、営業中の苫小牧駅前店内で実技審査があった。接客時の笑顔や誠実性、状況判断の迅速性などが審査基準となり、外食や宿泊業の幹部など、社外審査員も審査に当たる。道内の店舗に配属されたばかりの新入社員もマルハンを代表する21人の接客を見守った。

表彰式で社長が言葉を詰まらせ語ったこと

実技審査を終え、同日、苫小牧市内のホテルで表彰式があった。上位7人は表彰を受け、トロフィ(3位まで)が贈られたほか、自身の見識を広げ、深めることを目的にハイクラスの宿泊施設やレストランなどに足を運ぶ「一流体験ツアー」の招待を受ける。キリンビバレッジをはじめとするMSG協賛企業からの景品もあった。

いったいなぜ、従業員のモチベ―ションアップのために、ここまで大がかりなイベントを実施するのか。背景には「パチンコ業界を変える」という強い思いがある。

カンパニー大会に参加した21人と同社の韓俊社長(写真中央)

北日本カンパニー韓俊社長は表彰式で「沢山の素晴らしい従業員がいるこのマルハンの代表でいられることに、改めて誇りを感じました」と大会を総括。こう昔を振り返り、言葉を詰まらせる場面もあった。

「私は、31年前に入社をしました。今では考え難いですが、当時のパチンコ業界に、サービスという概念は存在しませんでした。そんな中、兄である韓裕が、この業界を誇れるものへと改革したい。そして、次世代に繋いでいける健全な業界へと変えていきたいと語り、そのためにはサービスは不可欠であるという考えのもと、『業界を変える』という旗を上げました。『いらっしゃいませ!』『ありがとうございました!』。スタッフは必死に声をあげましたが、お客様は無反応でした。それどころか、『挨拶している暇があれば、玉を出せ!』と言われる始末でした。長らくそんな日々が続きました。それでも、時間の経過とともに1人また1人とお客様の反応が変わっていきました」

高校生の採用は苦戦。抜けない従来のイメージ

パチンコ業界にサービスという概念を持ち込んだ同社は、積極的な高卒採用を行っている。ただ、人材開発部課長の山下直美さんはこう話す。

「高校の進路指導現場や保護者様のなかには、過去のパチンコ店のイメージのままの人が少なくありません。映画やテレビドラマのイメージから、ガラの悪い人が多いのでないかというイメージが強いですが、実際はその逆です。50歳以上のお客様が半数近くを占め、スタッフを孫のように可愛がり、世間話に花を咲かせるなんて光景は珍しくありません。お金儲けではなく、レジャー目的のお客様のほうが多いのが現状です」

単身世帯が増加するなか、パチンコ店には新たな役割が

また、パチンコ店と言えばタバコの煙が充満しているなど、働く環境としてよくないイメージも強い。

「2020年4月には全面分煙し、業界に先駆け、完全禁煙の店舗づくりを進めています。店内の音がうるさいというイメージも強いかと思いますが、現在は天井や壁に吸音材を設置したり、遊技台自体の音量設定を控えめにしたり、隣の人と話せるほどの静音化に取り組んでいます」(山下さん)

地域コミュニティの役割も

積極的な高卒採用を進める同社だが、MSG第5回大会で優勝した舘山耕大さん(34歳)は高卒だ。青森県立板柳高校時代はサッカー部の活動に明け暮れた。就職活動を始めたのは夏休みを終えた9月から。東京の会社で働きたいと考えていた舘山さんは、先に東京のパチンコ店に内定が決まった友人に誘われ、同じパチンコ店で働くことを決めた。

「青森県内の求人は給料が安く、最初から東京で就職しようと考えていました。学校の先生も『給料のいいところを選べ』と背中を押してくれました」

受賞トロフィーを持つ舘山さん

舘山さんは東京のパチンコ店で3年働いた後、祖母が体調を崩したことをきっかけに、青森に帰った。実家のりんご農家は両親と祖父母が営んでおり、祖母が作業できなくなった分、自分が近くで何かあった際は支える必要があると考えたからだ。

故郷に戻った舘山さんはハローワークで求人票を探し、マルハンを見つけた。

「パチンコ店で働いてきた経験を活かし、その最大手に挑戦したいと考えました。実際に入ってみると、接客レベルの高さに驚きました。パチンコ玉を入れるドル箱を両手で持ったり、帰られるお客様の背中にまでおじぎをしたり、東京のパチンコ店とは全く違いました」

マルハンへの就職を考える高校生へのメッセージを求めると、

「パチンコ店という括りではなく、接客業を目指す人は、マルハンを検討して欲しいですね。『ボケ防止のために来ている』と冗談を言うお客様もいるなど、以前のようなギャンブル場のイメージはありません。今後も単身高齢者が増えるなか、パチンコ店が地域コミュニティの一つの役割を担っていくと思います」

実技審査に挑む舘山さん

すでに結婚し、今年2月に第一子を授かったという舘山さん。「安心して働けます」と、マルハンを勧める理由に待遇の良さも上げる。同社人事部によれば、年間休日は116日で、高卒新卒で初年度の年収は賞与を含め330万円の水準になる。今年度は、北海道、東北エリアで積極的な新卒高校生の採用を行う予定だという。