運転免許の取得要件が緩和され、積極的な高卒採用に動く運送会社も多い。ただ、大型の長距離トラックドライバーの経験があり、ベストセラー『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)著者の橋本愛喜さんは、若手のドライバー確保のためには業界が抱える大きな課題があると指摘する。
編集部=澤田晃宏
19歳で大型免許の取得が可能に
19歳で大型免許が取得できる――5月に施行された改正道路交通法により、運転免許の受験資格が大幅に緩和した。
具体的には、大型トラックで「21歳以上で普通免許の保有歴3年以上」、中型トラックで「20歳以上で普通免許の保有歴2年以上」となっていた受験資格が、「19歳以上で普通免許保有歴1年以上」に変わる。受験資格特例教習を受ける必要はあるが、受験資格の低年齢化により、新卒高校生を積極的に採用したいと考える物流会社は増えていくだろう。
ただ、元トラックドライバーでフリーライターの橋本愛喜さんは、こう言い切った。
問題は荷主第一主義
経済の血流である「物流業」だが、橋本さんが指摘する通り、決して労働環境がいいとは言えない。国土交通省によれば、物流業界の労働時間は全産業平均に比べ約2割長く、年間賃金は約1~2割低い。低賃金で長時間労働という現実を解決しないことには、「いくら受験資格を緩和しても、若者が物流業界に積極的に入ってくることはありません」と橋本さんは指摘し、こう続ける。
物流2法は「貨物自動車運送事業法」と「貨物運送取扱事業法」を指す。物流業界への新規参入を促すため、従来の免許制を許可制にしたり、最低保有車両台数を下げたりするなどの、規制緩和を行った。
ドライバー不足は加速する
トラックドライバーの主たる業務は荷物の運搬だが、現実はそうでもないようだ。
70代のトラックドライバーが、30㎏のコメ袋800個を運搬したうえ、その積み下ろしまでやらせれた――現在もトラックドライバーの取材を続ける橋本さんのもとには、現役ドライバーからの現場報告が届く。おまけ作業は荷物の積み下ろしにとどまらず、荷物の仕分け作業やラベル貼り、棚入れや商品の陳列まで、契約にない付帯作業までさせられるドライバーが多数、存在するという。
なぜ、そこまでする必要があるのか。ある運送業者によると、付帯作業を断ったり、その料金を請求したりすると、「ほかに変わりはいくらでもいる」と、脅しのような言葉が返ってくることも少なくないという。
橋本さんの危機感は強い。
すなわち、日本という国の血流が止まるということだ。いったい、どうすればいいのか。
建設業界でも同じことが言えるが、運送業界も学生時代はヤンチャだったタイプが多い。人の下で働くのではなく、個人商店としてでも自分で生きていく傾向が強い。そのため、業界で足並みを揃えようにも、会社数が多く、また、小さい規模の会社が多い。荷主第一主義の背景には、そうした業界独自の事情もある。
俺たちは透明人間ですか
橋本さんは、ドライバー不足に拍車をかける運送業界のもう一つの理由があるという。
ドライバーに対する社会の敬意が足りない。それは、コロナ下で「ラストワンマイル」と呼ばれるBtoC(個人宅配)にも広がっている。
インターネットを通じてモノやサービスを売買するEC市場は拡大を続け、国交省によれば宅配便の取り扱い個数はここ5年間で約2割も増加している。
ただ、コロナ下でラストワンマイルのドライバーの姿さえ見えなくなっている。
免許取得要件の緩和で若手のドライバーが増える。少なくとも、そんな甘い話ではないことだけは確かなようだ。
橋本愛喜(はしもと・あいき)
元工場経営者。日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題をテーマに取材活動を続ける
※本記事は「高卒進路」2022夏号の掲載記事です